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川柳的逍遥 人の世の一家言
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切り花にしないで根ごと私です  下谷憲子


   葵の上

のぼりぬる 煙はそれと わかねども なべて雲居の あはれなるかな

(空に上っていく葵の上を焼いた煙はどれだかわからなくなったけれど、
  雲のかかっている空のすべてが懐かしくおもわれてしまう)

「巻の9 【葵】」

光源氏22歳。桐壺帝は既に、源氏の兄にあたる朱雀帝に帝位を譲っていた。

源氏も昇進して今は大将という地位にいる。

でも身分があがるほど、軽はずみな行動ができなくなる。

忍ぶ恋人の六条御息女をはじめ、源氏を待ちわびる姫君たちは、

寂しい思いを続けている。

さらに桐壷帝が退位後、桐壷院となってからは、

藤壺といつも一緒なので、
源氏の物憂い気分は増すばかりであった。

如月の跳ぶに跳べない水溜り  合田瑠美子

そんななか、少し心を安らかにしてくれたのが、正室の葵の上だった。

これまではなんとなく、ぎくしゃくした関係だったのが、

お腹に源氏の赤ちゃんができ、心細げな仕草を見せたりする。

そんな葵に源氏は、次第に愛おしさを感じるようになっていたのだ。

そんな頃、源氏も行列に加わる祭典が開かれる。

身重の葵の上は気分が余り優れず、最初は見物にいくつもりはなかったが、

若い女房たちに促されて、日が高くなってから急に出かけることになった。

そして源氏の恋人・六条御息所も忘れられぬ源氏の姿を一目見ようと、

恥を忍んで祭りに参加してきている。

一秒前を破り捨てましたので生きる  山口ろっぱ


   車争い

時の人、源氏の君が祭りの行列に参加するとあって、見物席は大賑わい。

女性たちを乗せた車は止める場所も無いほでである。

葵の上の車が到着したときも、場所がなく従者たちは先に止めてある車を

おしのけて強引に乗り入れていく。

ついには六条御息所の車は後ろにおいやられ、

まったく行列が見えなくなったどころか、車の一部が破損してしまった。

お忍びで出かけたはずなのに、衆人の中でまことに体裁が悪く、悲しく、

悔しくて、六条御息所は見物を止めて帰ろうとするが抜け出る隙間もない。

源氏の正妻に場所を奪われ、源氏の姿もチラリとしか見ることができず、

六条御息所は自分の憐れな姿を嘆くのだった。

半熟の牛車で祇園会へ帰る  くんじろう

そんな騒動があり、暫く経った頃、懐妊している葵の上の容態が悪くなる。

偉い僧侶を読んでの加持祈祷など、当時としては精一杯の治療を施すが、

「どうしても取り払えない物の怪が憑いている」というのである。

あの六条御息所にも、この噂は届いていた。

彼女はこの頃、正気を失ったようになることが、たびたびあるので、

「もしやその物の怪は、自分自身ではないか」と、思い悩んだ。

懸命の祈祷が続けられ、いくつかの物の怪は退散していったが、

一つだけ、どうしても去らない悪霊がいる。

そこで祈祷をさらに強めると、とうとう物の怪が葵の上の口を借りて、

「どうかご祈祷を少しゆるめてください。

    源氏の君に言いたいことがあります」 
という。

距離おいて愛の深さを確かめる  上田 仁

葵の上は、まるで臨終のときの様子で、源氏に遺言でもあるのかと、

左大臣や大宮も下がって、源氏ひとりを几帳の中に入れた。

ふだんは打ち解けず、つんとすました様子であったが、

病床に伏せった彼女は、警戒した雰囲気も消え、いじらしく感じられた。

源氏は思わず泣き伏した。

すると葵の上は気力もなさそうに顔をあげ、

それから源氏の顔をこの世の名残り
のようにじっと見つめ、

瞳からは大粒の涙が零れ落ちてくる。


諦めの裏は霙が降っている  嶋沢喜八郎


 物の怪と葵の上

あまりに激しく泣くものだから、

源氏もきっとこの世の別れが辛いのだろうと


「たとえ万が一のことがあっても、父母や夫婦の縁は深いと申しますから、

    生まれ変わっても必ずどこかで巡り会うものです」と慰めた。

すると葵の上はじっと源氏の顔を見つめたまま、

「いえ、そんなことではございません。この身が苦しくて仕方がないので、

    どうかもう少し祈祷をゆるめていただきたくて」という。

この後、葵の上に乗り移っていた生き霊は、いつの間にか消えていた。

言の葉の意味へ寝返りばかりうつ  山本昌乃

生き霊が消え葵の上の様態も持ち直し、まもなく美しい男子が生まれた。

子を授かり、源氏は葵の上に深い愛情を感じ、葵の上も苦しみの中で

源氏に
すがり、2人の間にようやく夫婦らしき仲睦まじさが生じていた。

一方、葵の上が無事に出産したとの知らせを聞き、

六条御息所の心中は穏やかではなかった。

ふと気付くと、自分の体の隅々にまで芥子の匂いが染み付いている。

祈祷のときに護摩を焚く、その芥子の匂いがついて離れないので。

六条御息所は、全身に鳥肌が立つのを覚えた。

胸の底図太い鬼に居座られ  牧浦完次

やっと、本当の夫婦らしい仲になれたと思った矢先、

葵の上は再び物の怪に襲われたように、激しく苦しみだし、

宮中にいる源氏に知らせる間もなく息絶えてしまった。

祈祷のための僧侶を呼ぶにも間に合わない。

左大臣の狼狽ぶりは尋常ではなく、もしかすると生き返るのではないかと

葵の上の遺体をそのままにしておいて、二、三日その様子を見守ったが、

しだいに表れる死相を見るにつけ、嘆くばかりであった。

後には、生まれたばかりの子どもが残された。後の夕霧である。

【辞典】 「御息所」

御息所は、皇子や皇女やことのある帝につかえていた女性のことをいう。
六条御息所それなりに高貴な身分であった。
それゆえ開けっ広げに源氏を
求められず憂鬱な日々を送っていたのである。
尚、祭り見物の場所取り争い
で彼女の車をおしのけようとする
葵の上の家来に、六条御息所の家来が、

「押しのけられる身分のかたではない」と怒鳴っている。
因みに、六条御息所は「巻の4・夕顔」に登場している。

幽霊は毎日午前二時に出る  筒井祥文

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