忍者ブログ
川柳的逍遥 人の世の一家言
[595] [594] [593] [592] [591] [590] [589] [588] [587] [586] [585]
ウラとオモテを入れ替えただけの空  井上一筒



「もう一人の伊之助」

元治元年、「禁門の変」によって長州藩が京都から追われ、

長州藩の内部で幕府に対する恭順派と、

幕府の過ちを正すという正義派の内部対立で、

恭順派が長州藩の政権を握ると幕府に対して、

反抗しようとする正義派への徹底した弾圧、粛清が為された。

実は小田村伊之助の兄・松島剛蔵も捕われて斬首に処されている。

伊之助にも嫌疑が及び、入牢という状況になり、

伊之助はこれに先立つ形で、

「自分が多分入牢すると、死ぬかもしれない」 ということで、
                 もうしのこしそうろうことのは
妻・寿子に後事を託す遺言・「申残候言の葉」を残している。

難破船に乗った理由なんてない  和田洋子

そこには、死を目前にした心境ではなく、

非常に細かいことを書いている。

「これから自分の家は貧しくなるけれども、

   子供たちは裕福な家のことをうらむことがないようにせよ」

過去を振り返れば、

松陰の本家の杉家も、小田村家も、それほど高級な家柄ではない、

武士の清貧ということ、

まさに、そういう形で家政を切り盛りをしてきた。

 寿が楫取に嫁いだ時には、まだきちんとした一軒家も構えていない。

 「結婚したときには、煮炊きする道具もなく、

   蟻が餌を一つ一つ運んでくるように、自分たち二人は、

   家財を集めてきて、暮らしてきた」

そうした家財への配慮のことまで書いている。

リンゴの唄に救ってほしい昨日今日  石神孔雀

そして、入牢に際、妻・寿子に残した一編の詩には。

「勤倹十年家政、裁縫紡績幾営為、糟糠未報阿卿徳、

 又向獄中賦別離」

意味は、「勤倹すること十年、家政に労す」とあり、

苦しい中を自分たちは、十年間も何とかやってきたのではないか

という思いが「家政を労すること十年」という語句に示されている。

多分、この詩句を受け取った寿には、

伊之助の言う行間の心は、理解していたのであろう。

まず、「今までの十年は、こうだったな」 

と伊之助はは思いい起こしているのだ。

いつも通りに豆腐屋さんの水の音  墨作二郎
                    ほと
その次の語句が、「裁縫紡績、幾んど営為す」

主婦としての当然の仕事をきちんと、

全部あますことなくやってくれた という思いがあって、

家政のうち裁縫紡績を例えて挙げている。

第三句目は、境地が少し変わり、起承転結の「転」に入る。
 そうこう  そなた
「糟糠末だ阿卿の徳に報いざるに」

(思えばお前に何も恩返しすることができなかった)

(阿卿とは、「卿」は六朝のころから、夫が妻に対する呼びかけ

「おまえ」とか「そなた」になる。

「阿」は、相手を慈しむ接頭語)

伊之助が妻に対する思い、「そなた」と妻を愛しむ思いで、

呼び掛けている。

「糟糠」というのは、非常に貧しいときの状態。

これを見る限り、伊之助は家を思い、妻を愛し、

子には優しい普通の人だったようだ。

後ろにもテトラポットな父がいる  山本早苗


   延寿王院

その後、高杉晋作らの働きで藩是の変更に成功し、

野山獄に投ぜられてから、

約半年後の慶応元年(1865)に、伊之助は出獄を許される。

出獄するとまもなく、藩主・毛利敬親から呼ばれ、密命を受ける。

そして、その年の5月には、伊之助は、

塩間鉄造と名乗り、大宰府にいた。

幕末、公武合体派による政変で都落ちした

尊王攘夷派の公爵七人のうち五人が、

太宰府天満宮の延寿王院で約3年間の幽閉生活を送っていた。

この福岡藩の世話で大宰府に滞在している五卿に会うために、

危険を冒して大宰府に赴いたのである。

カーテンを洗い半年巻き戻す  竹井紫乙

五卿(三条実美・三条西季知・四条隆謌・東久世通禧・壬生基修)

に会い、長州藩の立場を説明し、

倒幕を他藩に呼びかける協力を要請するために、

伊之助は動いていたのである。

しかし、五卿は時勢を全く分かっていない。

一応の理解は得たものの、伊之助の期待から遠いものだった。

この頃の大宰府は、西郷隆盛・土方久元、桂小五郎、中岡慎太郎、

坂本龍馬など多くの維新の志士たちが訪れるなど、

さながら、反幕府運動の拠点になっていた。

そんな大宰府で気落ちしていた伊之助は、

「薩長連合」の架け橋となる重大な人物と出会うことになる……。
                              「楫取素彦伝 耕堂 楫取男爵伝記より」

白っとしてる中へ歩幅が進まない  森 廣子

拍手[5回]

PR


Copyright (C) 2005-2006 SAMURAI-FACTORY ALL RIGHTS RESERVED.
忍者ブログ [PR]
カウンター



1日1回、応援のクリックをお願いします♪





プロフィール
HN:
茶助
性別:
非公開