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川柳的逍遥 人の世の一家言
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ハンカチの黄色は褪せて黒ずんで  嶋澤喜八郎

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   会津戦争記聞

迫り来る新政府軍から、馬上の容保を守る会津藩士たち。

左から3番目に
中野竹子も描かれている。

(画像は大きくしてご覧ください)

「会津のために」

急を告げる城内の警鐘が乱打された。

それは城下すみずみまで鳴り響いた。

郭内の武家屋敷では、藩士の留守を守る家族が残っており、

この鐘が鳴る時には、

籠城して城を守る合図として会津藩では通達されていた。

同じこと聞かれて同じこと言うて  都司豊

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朝餉の片付けも終り、自室に戻っていた八重は、

突然鳴り響いた鐘の音に、びくっとしたものの反射的に動いた。

―家族を守るのだ!

「お母さま!!」

「八重!早く避難せねば!うらや!何も持たずともよいから、

  みねを連れて逃げるのです!」

「お母さま!今、お城を守るのは、

  郭内に残っている私たちの役目です!

 逃げても会津のためにはなりませぬ!!」


真実を伝える唇が赤い  笠嶋恵美子

母・佐久は、そんな強い語気の八重を初めて見る思いで、

「八重や!女や子供が、城の中に入っても、

  戦いのジャマになるだけですよ!」


日頃から、おとなしいうらも、

「そうですよ八重さん!私の実家がある村へ早く逃げましょう!」

「八重や!みねもまだ幼いゆえ足手まといになるだけですよ!」

「そうですよ、八重さん!早く逃げましょう!」


信号が青になっても出ない足  牧浦完次

そんな母や嫂のうらの差し迫った言葉も八重にとって、

会津藩の一大事の前では、只々悲しく聞こえるのであった。

ー城が落ちて、会津藩がなくなってしまえば、

父や兄や、三郎が、今まで戦ってきたのは、

何のためなんだろうかと。


ー今ここで城を後にして、ただ逃げるだけなのか。

最後の最後まで、私は家族のためにも、会津のためにも、

戦いたい!


ー会津は間違っていない! 殿さまを守らなければ!!

柔よく剛に挑んだのは女たち  桑原伸吉

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八重は決意をこめた口調で、

「お母さま、嫂さん!私は、幼い頃からお父さまや兄さまに、

  砲術を教わってきたのですよ。

 藩のためにも殿さまのためにも、それを役立てとうございます」


それを聞いて、佐久は面くらいながら、

「でも八重や、私やうらが何のお役に立てるというのですか?」

うらも、

「そうですよ八重さん。みねも危険ですし、

  私なんぞ、何の役に立てるというのですか?」


八重は、郭内がさわがしくなってきているのを聞きながら、

辛抱強く2人を説得した。

微笑んだ頬に涙の跡がある  藤井裕司

「お母さまや嫂さんは、

  食事を作ることができるではありませぬか。

 ケガをした兵士がいれば手当てをすることだってできるし、

 火を熾すことも、水を運ぶことも!

 女だって、子供だって、
戦の力となります!

 それに郊外の村に逃げる間に、


   敵にみつかってしまうかもしれません。

  女、子供だけで、どう立ち向かえばいいのですか?」


「でもお前・・・」

と母は、まだ不安そうな表情で、うらも呆然としながら、

逃げたそうな面持ちであった。

わたしにもまだ差し上げるものがある  安土理恵

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「お嫂さま、兄さまの行方は判りませぬが、

  必ず生きていらっしゃいます!

 なにとぞ八重のことを信じて、ついて来ていただけませぬか?


 お母さまも、お嫂さまも、みねのことも、

 八重が守ってみせますから!!」


そう言いながら、八重は、

亡き三郎の袴と軍服に素早く着替え、

麻の草履をはき、両刀を佩いて、スペンサー銃を肩に担いだ。

母佐久は、「八重・・・」と、あとは言葉にならず、

一瞬のうちに、八重の心情を察した。

重ね着の隙間を風がすり抜ける  神野節子

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母佐久と嫂うら、姪のみねと共に、

八重たち山本家の女たちが、城内に入ったのは、

城下のそこかしこで銃撃戦が始まり、

火の手が上り、甲賀町郭門口、桂林寺郭門口が突破され、

銃声や怒声が飛びかい、

間一髪で城門が閉まる直前の時であった。

「嫂さん、お母さまとみねのこと、よろしく頼みますよ!」

「八重さんは、どうなさるおつもりなの?」


ーここまで来れば大丈夫。

なんとか頑張って城を守っていきましょう。

心の中で言いながら、弟の仇を討つ意気込みで、

八重は鉄砲隊のいる場所を目指して、駆け出した。

生きるためそれから人を愛すため  清水すみれ

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