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川柳的逍遥 人の世の一家言
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行住坐臥なんの飾りがいりましょう  田口和代


        杉 家 旧 家

杉家の畳のある部屋は、四室で合計18畳。

別棟の馬屋、物置を含めても20坪。

ここに最大13人が身を寄せて暮らした。



「文の母・瀧子」

瀧子は、20歳のとき、杉百合之助のもとに嫁いでいる。 

百合乃助より3歳年下の瀧は、慈愛に満ち笑顔を絶やさなかった。

嫁いだときには、杉家には姑(岸田氏)

夫の二人の弟・大助・文之進が同居し、

さらに姑の妹も子連れで帰ってくるなど、大家族であった。

そして梅太郎松陰に次いで、天保3年には長女・千代が誕生する。

増える子供の世話も大変だが、

さらにここに瀧の姉が転がり込んできた。

マックス13人が暮らした杉家宅であった。

生い立ちの貧しさ青に近づけぬ  前田扶巳代

下級藩士の杉家は、決して裕福ではなく、

女中や下男を雇うことができなかった。

したがって瀧子は、夫と共に田畑を耕し家事の一切を引き受けていた。

しかし、そんな貧しい生活であるにもかかわらず、

子どもの教育に熱心で、「学問だけは怠らないように」と、

読書を勧めた。

松陰が後に継ぐことになる松下村塾を始めた父の弟・玉木文之進は、

人に厳しい人であったが、

その彼さえも瀧子を称賛してやまないほどだった。

松陰の弟子たちのことも可愛がり、貧しい中、

彼らを精一杯もてなした。

計算は嫌い貧しさにも馴れて  森中恵美子

それだけではない、姑は中風で寝込んだ上、

姑の妹までも半身不随となった。

長男・梅太郎が書いた『杉百合乃助逸話』に、

「瀧は三人の子供を抱えて、病人に行き届いた看護をなし、

   汚物の洗濯も意に介せぬ献身ぶりに、姑も泣いて感謝し、

   近所の者も涙した」 と書き記している。

こうした苦労の多い生活をしながら、ときには、

狂歌を作って披露し家族を笑わせるなど、

根っからの楽天家であった。

風呂は肉体と精神を爽やかにし、家族に平安をもたらすと、

毎日風呂を焚いた。

青を着る平常心のぶれぬよう  美馬りゅうこ



梅太郎の逸話に、

あかぎれで湯が沁み、つま先だって歩く母が、

「あかぎれはこゑしき人のかたみかな ふみみるたびにあいたくもある」

と、詠い皆を笑わせた とある。

(こゑ(恋)しき人、ふみは(文)と(踏む)の掛けことばになっている)

こうした瀧のもと、大家族は一つになっていた。

ゼロ番線の先で光っている青  広瀬勝博

だが総じて瀧子の生涯は、苦労多く、松陰だけでなく、

子どもや孫にも先立たれ、松陰の刑死は、夫にまで及んだ。

だが、瀧は、慌てず騒がず乗り越えてきた。

末娘・も、そんな母を見て育ったのだろう。

彼女が兄・松陰や夫(久坂玄瑞)の死を乗り越え、

再婚した楫取素彦のよき伴侶になり得たのも

こういう母のもとで多くのことを学んだからに違いない。

松陰の母への気持ちと、母の松陰に対する気持ちがこめられた

有名な句がある。

「親思うこころにまさる親心 今日のおとづれ何と聞くらん」

(江戸で罪人として処刑が決まった松陰が、郷里の両親に宛てた時の句)

愛から愛 花から花が生まれます  津田照子



「文の父・百合乃助」

名は常道。

通称で百合乃助と呼ばれた。

家禄は26石。

因みに同居の二人の弟は、

吉田家と玉木家に養子に行き57石と40石を得ている。

天保14年、文が生まれた年に、百合乃助に慶事が訪れる。

藩政改革のなか、中間百人頭兼盗賊改方に抜擢されたのだ。

杉家は家禄26石だったが、

借金や召し上げ米もあって実収入は年7.7石。

これは大人四人分ほどの食い扶持にすぎなかった。

だからこそ杉家は夫婦して農耕に勤しみ、何とか生計を立ててきた。

凛として木目通して父の椅子  山本早苗

日ごろの百合乃助は、読書家で暇さえあれば本を読んでいた。

畑仕事をするときも、いつも、座右に本を置いて、

それを読みながら作業に励んだという。

「杉百合乃助逸話」では、

「百合乃助はもっぱら農耕を生業とし、農作業をしながら、

   常に読書を怠らず、梅太郎、松陰の素読はほとんど畑で教えた」

とある。

息子たちを耕作の休憩中に畦に座らせ、「四書五経」を教え、

山への道すがら、「詩文」を吟じて覚えさせた。

また夜の米つき、藁仕事の合間を惜しんで、

楠木正成児島高徳など天皇の忠心の物語を聞かせた。

(松陰が天皇を敬う「尊王」の考え方も、父の影響だった)

私がまず抽出しになっている  河村啓子

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