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川柳的逍遥 人の世の一家言
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説教を暗記するほど聞かされる   菊地政勝





       狂歌五十人一首 (画図北尾政演・剞判関治右衛門刀・刊元蔦屋重三郎)
唐衣橘洲は狂歌の会を立ち上げた人である。



明和の年間、内山賀邸門下の唐衣橘洲(からころもきっしゅう)や太田南畝
(四方赤良)などを中心として「狂歌の会」が生まれる。
狂歌とは、簡単に言えば「和歌のパロディ」である。
「雅文化」の極みである和歌の形式・手法をなぞりつつ、そこに卑俗な要素を
盛り込むことによって生ずる落差に興ずる戯れである。
この同好の士たちの集まりは、徐々に輪を広げていった。
四方赤良(よものあから)こと太田南畝は社交の巧さ、人心を惹きつける力と
明るい詠みぶりとで、狂歌の中心的存在となる。
南畝は、狂詩や洒落本においても注目を浴びている人間であり、また「会」
いう通人の集いには世間の関心も厚く、この狂歌の会が脚光を浴びて江戸市中
に狂歌人気が沸き起るのにさしたる時間は要しない。
極論すれば、この文芸活動は「会」すなわち、狂歌を出しにして、楽しく集う
ことに本質があった。詠まれた狂歌そのものには第二義的な意義しかない。
極めて自由な発想で、様々な分野の才人が、この世界に取り込まれていくこと
になる。



しゃがれた声で鳴く江戸前の猫  酒井かがり




蔦屋重三郎ー吾妻曲狂歌文庫






  盃の うかむ趣向にまかせたる 狂歌は何の曲水もなし 土山宗次郎

太田南畝のような貧乏御家人が狂歌会を開いたり、吉原で宴会したりできた
のは、旗本の土山宗次郎が、パトロンだったからである。土山は田沼意次
側近として、勘定組頭に抜擢され金回りが良く、その派手な暮らしぶりは、
評判の人だった。



狂歌ブームとともに、それまでのその場限りで詠まれる狂歌を収録した狂歌集
・狂歌本を各版元が出版するようになった。
狂歌集の出版には、やや遅れて参入した蔦重は、自ら「蔦唐丸」という狂名で
狂歌師として「連」に出入りしながら、狂歌集・狂歌本の制作をはじめた。
では、狂歌サロンの面々の狂歌を鑑賞してみましょう。




好奇心まだまだあって途中下車  荒井眞理子





 四方赤良(太田南畝)
 あなうなぎいつくの山のいもとせを  さかれて後のちに身をこかすとは
〔ああ、つらいことだな、鰻は。以前は、どこかの山の芋だったのに、今は
背を裂かれ、そして焼かれて、身を焦がすことになってしまったことよ〕
 (山のいもとせ=以前は妹背と呼び合い、愛し合う仲だったのに)





 朱楽菅江   
紅葉々ハ千しほ百しほしほしみて  からにしきとや人のみるらん
〔=紅葉の葉は(遊女は客を沢山取り)何度も何度も染め釜を潜らせるうちに、
華やかな色になり、世間の人はそれを見て「唐錦」みたいと賞賛している〕





宿屋飯盛 (やどやのめしもり)
 などてかくわかれの足のおもたきや 首ハ自由にふりかへれども
〔後朝(きぬぎぬ)の別れの時の足は、どうしてこのように重たいのだろうか。
首は自由に振り返れるのに〕





馬場金埒(ばばきんらち)
 我心あけてミせたき折々ハ 腹に穴ある島もなつかし
〔疑われて、我が心を開けて見せたい折々は、腹に穴が明いている人間が住む
という島も懐かしい=腹に穴はないので、我が心を見せることはむずかしい〕



物欲は無限長生きしなければ  川端六点




唐衣橘洲(からごろもきつしう)
 世にたつはくるしかりけり腰屏風まがり なりにハ折かゞめども
(=腰は曲がりなりにも、腰屏風のように折り屈めるけれども、年を取った
ことだなあ。夜に立つのが難しくなったことよ





手柄岡持 (てがらのおかもち) (朋誠堂喜三二)
 とし波のよするひたひのしハみより くるゝハいたくをしまれにけり
〔=年を重ねて額の皺が増えるのと、年の暮れるのは惜しまれるが、御歳暮
にものを呉れるのはいたく捨てがたい〕





酒上不埒(さけうえのふらち) (恋川春町)
 もろともにふりぬるものは書出しと くれ行としと我身なりけり
〔=そろって疎ましく嫌いになるものは、請求書の束と迫ってくる年の暮れ
と、また一つ歳をとる我が身〕





尻焼猿人 (しりやけのさるんど)
 御簾ほどになかば霞のかゝる時 さくらや花の王と見ゆらん  
(御簾を通して眺めるように、うっすらと霞〔霞と酒をあたためる湯気)がか
かるとき、桜はまことに美しく、花の王と見えるだろう〕



酒という字が夕暮れにポッと点く  新家完司





鹿都部真顔(しかつべのまがお)
 思ひきや十ふの菅ごも七ふぐり 女にまけてひとりねんとは
〔思っただろうか。あの十符の菅薦(とふのすがこも)の歌を。愛しいお前を
七符に寝かせ、自分は三符に寝ようと思っていたのに、だらしなくも、女との
喧嘩に負けて七ふぐり、まさかひとりで寝ることになろうとは〕





万象亭(まんぞうてい)
 千金の花のうハはとミゆるかな 小粒となりてふれる春雨
〔一分金は千両に比べたらはした金と見えるだろうな〕
 (昔は千両の花代を払えたのが、今は端金しか持ち合わせがなくなり、一分金
「小粒」で買える遊女しか買えなくなった)





山手白人(やまてのしろひと)
 中々になきたまならばとばかりに かけはたらるゝ盆のくりこと
〔いっそのこと、亡霊か精霊になったら、どんなに楽だろうと思う。溜まった
掛金を厳しく取立てられる盆の繰り言〕





平秩東作(へづつとうさく)
 辻番ハ下座のかた手のつくり松 日に十かへりもはひつはハせつ
(辻番は暇な仕事だなあ。せいぜい殿様の登下城の時くらいしか平伏しない
じゃないか。その平伏と平伏の合間には盆栽いじりしかしていない)
(=松は千年に十返り〔千年に十回花が咲く〕と、いわれるが、辻番は日に
十回も平伏することはなく、平伏の仕事の片手間に十返り、松を作っている)




ひだり手は水栽培で育てます  徳長 怜






糟句齋(かすくさいよたん坊)
 うき涙ふるき屏風の蝶つがひ はなればなれになるぞかなしき
〔=憂き涙。二人の仲があたかも岸を離れて漂う泡沫のように、また古屏風
の蝶番が壊れてばらになるように、そんな風に離れ離れになることは悲しい
ことだ〕






玉子香久女(たまごのかくぢよ)
 染るやらちるやら木々ハらちもない いかに葉守の神無月とて
〔染めるやら散るやら木々=思い悩むやら別れるやら女の気心は順序はない。
いかに葉守の神が不在の神無月だからとて。なんとも滅茶苦茶だ〕





算木有政(さんぎありまさ)
 やうやうとたづねあふても後家鞘の ながしミじかしあはぬこい口
〔やっと訪ねあてても、後家鞘の様に長し短しだし、鯉口も合わない〕





腹唐秋人(はらからのあきんど)
 春きてハ野も青土佐のはつかすみ ひとはけひくや山のこし張
〔春が来て野も青々と、青土佐の一刷毛を引いたように美しく色づく。
初霞が山の麓にかゝって、まるで腰ばりのようにみえる〕





浜辺黒人(はまべのくろひと)
 くひたらぬうハさもきかずから(唐)大和 たつたひとつのもちの月影
〔不満足と云う噂は唐大和でも聞いたことがない。すべての人がたったひ
とつの望月の月影を堪能している〕



天国は此処かもしれぬ花の下  柳岡睦子






花道つらね (五代目市川団十郎。号白猿、俳名三升)
たのしみハ春の桜に秋の月 夫婦仲よく三度くふめし
〔=そのまま楽しみは春の桜に秋の月。夫婦仲良く三度食う飯〕





加陪仲塗(かべのなかぬり)
 秋の野になく小男(さを)鹿の角なれば さいになりてもめや恋ぬらん
〔秋の野に分け入り、雌鹿を恋いて鳴くさ牡鹿であるので、その角でつくる賽
(サイコロは、博打打から目を乞われるように、雌鹿を恋い慕うことだろう。





油杜氏祢り方(あぶらのとうじねりかた)
 また若き身をやつしろの紙子には うつて付たる世をしのぶ摺
〔まだ若いから、身をやつし、世を忍ぶには紙子がうってつけだ。
白い紙子には信夫摺りがよくつくから)






門限面倒(もんげんめんどう)
 色香にはあらはれねともなま鯛の ちとござつたとみゆる目のうち
〔=生鯛は時間が経っても皮や色に変化がないものの、腐ったかどうかは目を
見リゃ分る。それと同じで、恋心は外には現れないが、目を見れば分る。
ふたごころがあるようだな〕



限りある命へやりたいこと無限  鈴木いさお





唐来参和(たうらいさんな)
 ない袖のふられぬ身にハゆるせかし 七夕づめの物きぼしでも
〔=ない袖は振れぬ身の私だから許してくれ。お前だけでなく、たとえば
七夕姫が「爪に物きぼしができた」と言ってきても、私にはどうもしてあげ
られないのだ〕





子子孫彦(このこのまごひこ)
 月雪のミたてもあまりしらじらし しらけていはゞこれは卯花
〔=月と雪に見立てるとはあまりに白々しい。白けてこれは卯の花かえ。
卯の花とは憂の花〕




山道高彦(やまみちのたかひこ)
 橋の名の柳がもとにつくだ船 かけて四ツ手をあげ汐の魚
〔=柳橋に着く佃島通いの船に乗り。四ッ手網のように大きく網をはっている
と沢山の男がかかった。芸者が多く住む柳橋である〕






今田部屋住(いまだへやずみ)
 春になりてのこりすくなの塩鮭を 去年のかたみと思ひぬるかな
〔=正月になって残り少なくなった塩鮭の片身を これは去年の形見と思った
ことだなあ)




おもしろい遊びを今日もしませんか   前中知栄
 




飛塵馬蹄(とぶちりのばてい)
 をしなべてやまやまそむる紅葉々の 朱にまじハれば赤松もあり
〔吉原の女すべてが紅葉色の装いだ。紅葉の秋だが、朱に交わったので赤く
なったようだ。その中に私を待っている遊女・赤松もいる〕





頭(つふり)光
 母の乳父のすねこそ恋しけれ  ひとりでくらふ事のならねば
〔=たらちねの母、脛を齧った父が恋しい。親元を離れたら暮らし向きが
容易ではない〕





邊越方人(へこしのかたうど)
 棹姫のお入とミえてむらさきの 霞の幕をはるの山々
〔春の女神とも称される佐保姫が、この奈良の都に入って来られた様子。
薄紫の霞が広がり、山々を包んでいるようだ〕
 


薄氷張ったバケツと泣いていた  山本美枝






紀定丸(きのさだまる) (大田南畝の甥)
 大井川の水よりまさる大晦日 丸はたかでもさすかこされす
〔大晦日に押し掛けてくる掛取りの圧力は、押し寄せてくる大井川の水の勢い
よりも凄まじい。丸裸・文なしになっても、その勢いは止められない。





土師掻安(はじのかきやす)
 時鳥ほとゝぎす一声ないてくれ六ツの かねからかぞへあかすみじか夜
〔=ほととぎす一声鳴いておくれ。暮れ六つの鐘から数えて明け六つまでの
短い一夜の間に〕





倉部行澄(くらべのゆきすみ)
 月日をもふるひつくほど恋しくて とかくはの根のあハぬ身ぞうき
〔=震えつくほどに恋して過ごした頃もあったのに、月日も経てみればとか
く歯の根が合わない身こそ、憂きものだ〕





古瀬勝雄(ふるせのかつを)
 船出せしうれし涙の水まして 明日はねかわん天のかわどめ
〔=船出させ恋人に逢えた。嬉し涙が洪水のように溢れ、明日は川留めになっ
てくれたらいいのに。




ぼうふらが浮いてきたから別れよう  井上恵津子





遊女歌姫(ゆうぢようたひめ)
 ふるかゞみ施主にはつかじかくばかり わかれにつらき鐘としりせば
〔=自分の魂が宿っている古鏡。大切な鏡を手放すことがこんなにつらいと知
っていたなら、私は鏡を寄進しなかったのに。新しい鐘はつらくて撞くこと
も出来ない〕





高利刈主(こうりのかりぬし)
 のぼるまでこぞの空なる鐘つきの 今年へおりる明六つの春
〔日が昇るまでは去年だったが、明六つの鐘が鳴って、新しい年の春になった〕





一富士二鷹(いちふじにたか)
 世のうさをのがれていらん観音の 山のおくなるよし原の里
〔世の憂さや世のしがらみから逃れて人は入るのだろう。浅草観音の山の
奥にある吉原の郭の里へ〕




世もすがらメガネが顔をかけている  通利一遍






銀杏満門(いちようのみつかど)
 よばずともかきねをこして這出る となりや竹の子ぼんなうなる
〔=隣の家から招かれたのではないが、竹の子は、隣を慕って垣根を越して
這い出る。隣は子煩悩なる人だから。





勘定疎人(かんぢやううとんど)
 よしあしの日はともかくもあふ夜半を 六十刻にさだめ置たき
〔=善いも悪いも、ともかく恋人に逢ふ夜は、時間を六刻を倍の六十刻に定め
て置きたいものよ〕
 




多田人成(ただひとなり)
 いひよればひんとはねたるかけ茶碗 つぎめのあわぬ身こそつらけれ
〔=口説いてみれば肘鉄喰らったが、女は茶碗でキズモノ。相手に合わせられ
ない自分がつらい〕





榎雨露住(えのきのうろずみ)
 我恋はお留場にすむ鴨なれや 目に見たばかり指もさゝれず
〔=我が恋は、禁猟区の鴨を相手にしてるようだ。ただ眺めるだけで指も触れ
られない〕




一日の愚痴は三つと決めている  清水すみれ







谷水音(たにのみづおと)
 行としのうしろみするもことハりや この光陰の矢つぎばやには
〔=自分の過ぎ去った歳月をふり返ると、この光陰の矢継早さに、おどろく
ばかり〕





遊女はた巻
 天の戸もしばしなあけそきぬぎぬの このあかつきをとこやみにして
〔=天の岩戸を今しばし開けないで。後朝の別れをしなくてすむように、
ずっと闇にしておいて〕



柳直成(やなぎのすぐなり)
 我恋ハ闇路をたどる火縄にて ふらるゝたびに猶ぞこがるゝ
〔=わが恋は、闇夜をたどる火縄のようだ。火縄を振るとよく燃えるように、
女にふられると、ますます恋の炎が燃え上がる)





豊年雪丸(ほうねんゆきまる
 としの坂のぼる車のわがよはひ 油断をしても跡へもどらず)
〔=年の坂、のぼる車の私の齢は、油断しても決して後へは戻らず。
歳月は人を待たずだ)




全身が砂丘になってくる齢   句ノ一





酒月米人(さかづきのこめんど) 
 鴬の羽風もいとふばかりなり あんじすぎ田の梅の盛は
〔=鴬の羽風にも花が散るのではと、案じ過ぎるくらい案じたものだった。
杉田の梅の盛りは〕





齋藤満永(さいとうみつなが) 
 うわかわの目もとにしほはこほるれと たゝ心中の水くさきかな
〔=うわべは、上瞼の目元に愛嬌があふれているのだが、ただ心の中はよそ
よそしく水くさいことだなあ。





小川町住(をがはまちずみ)
 ふた声ときかでぞ沖をはしり船 なごりをしさの山ほとゝぎす
〔=ほととぎすの声を一度しか聞かないうちに、帰りの猪牙舟は、吉原から
漕ぎ出し、走るように隅田川を下っている。名残惜しいことよ〕





大屋裏住(おほやのうらずみ)
 ともし火にせんと思へはたちまちに たちきえのする窓のあは雪
〔=蛍雪の功の故事にならって、積もった雪を明りにしようと思ったが、
窓辺の雪は、たちまちに消えてしまった〕





問屋酒船(とんやのさけふね)
 聾しひの身もうら山し待宵まつよいの 鐘とわかれの鳥の声には〕
〔=鐘の音を聞きながらいまか、いまかと待っていた。やっと逢えても、
すぐに鳥が鳴き別れの朝がくる。鐘の音も鳥の声も、聞こえない人が羨ま
しい〕




野ざらしの地蔵は修行中だろう   安井貴子 

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