川柳的逍遥 人の世の一家言
神戸操練所の元学徒は、天下の勝海舟に学んだだけあって、 それぞれが実践的な知識と技術を身につけ、 とりわけ航海術はお手のものであった。 龍馬が蒸気船を「俺の足」に、日本を走り回れた理由である。 亀山社中は『ユニオン号』という、蒸気船を買い入れるが、 これによって、龍馬および亀山社中の行動半径は、著しく拡大した。 「情報の先取りは、時代の先取りじゃきに、チーッとばかし金はかかったが、 新式の蒸気船を買うことにしたぜよ。 なにせ日本全国、はよう着くのがええ。 海には面倒な関所もないしのう」 と、いうわけであった。 風雲急を告げる幕末である。 陸路の三分一で、目的地に着ける蒸気船の運用は、 勝負に差をつけ、情報の先取りに欠かせない手段となった。 ≪組織に”先端機器”を導入し、その試みは成功したのである。 そういう好条件も重なって、亀山社中は幕末には稀な会社組織として固まっていく≫ 亀山社中の取り扱う物品は、武器、洋服から米まで、その品目は多岐にわたった。 しかし、時勢が時勢だけに、社中の取り扱い商品は洋式武器が主体で、 アメリカ南北戦争が終わったために、 不要となった銃器が、グラバー商会によって長崎に運び込まれ、 社中がそれを仲介し、顧客に引き渡す窓口になった。 社中の「利」は武器を仲介するマージンで稼ぎ出した。 顧客は長州である。 龍馬は、長州が幕府の第二次征長戦に備えて、 大量の新式銃を欲しがっているのを情報として、つかんでいた。 第一次征長戦では、長州藩が大敗して幕府に頭を下げた。 しかし、高杉晋作は、 みずから奇兵隊を率いて、幕府に決戦を挑もうとしていたのだ。 「この怒りは本物だ」 と悟った龍馬は、 どうにかしてアメリカ直輸入の武器購入を仲介しようとした。 ところが、幕府管轄が及ぶ長崎で、 長州者が堂々と、武器を買い付けるわけにはいかない。 龍馬は貪欲なまでに、これまで築いてきた人脈と、社中の機動力を利用した。 社中の大株主は、薩摩藩である。 そこで龍馬が考えついた案は、西郷隆盛に話をつけ、 薩摩藩名義で武器を購入させて、長州に引き渡すというものであった。 しかし、薩摩藩と長州藩は、”犬猿の仲”、 禁門の変では、久坂玄瑞ら長州を代表する志士が多数、 薩摩藩と結託した幕府軍に斬られた。 「薩摩は賊」と、敵愾心を露にしている長州と薩摩を、 結びあわせようとする龍馬の奇策には、西郷がもっと驚いた。 龍馬は一方で、 感情の高ぶっている高杉との接触は控えて、 長州藩の桂小五郎を口説き、馬関で、西郷と会談させる手筈を整えた。 ところが西郷は、長州を恐れてか、姿を現さなかったのである。 西郷の言い訳は、 「大久保どん(利通)からすぐ上洛せよと言われもうした」 であった。 長州はカンカンに怒り、西郷の心はつかめない。 絵空事に終わる”薩長同盟”と、思わざるを得ない状況にあって、 龍馬の胸中には、次の秘策が浮上していた。 「利」の効用に、目を付けたのである。 「利」の効用を使うはといっても、目的にかなう有効な手段とはならない。 長州藩は武器を欲しがっているが、 では、 龍馬は、そこを亀山社中の情報収集力を使って、探ったのである。 一杯の水戦略を立て直す 中上千代子 その結果龍馬は、薩摩藩が「米」を欲しがっている事実をつかんだ。 藩は他藩に、自藩の食品を回すことはなかった。 軍事的なバランスが崩れるからである。 しかし、「そこはなんとか、俺が」 と、 掛け合うのが、龍馬の根性である。 龍馬の目の付け所は、的確であった。 長州が薩摩名義を借りて、武器を購入してもらう代わりに、 長州は薩摩に、自藩の米を贈ることで、めでたく話がまとまったのである。 伊藤俊輔と井上聞多は、長州の代表として長崎に赴き、 亀山社中立会いのもとに、 薩摩名義でグラバーから、7700挺の洋式武器を買い入れてくる。 むろん表向きは、薩摩藩が武器を購入したことになり、 薩摩藩と手を組んできた幕府は、 当然のごとく、薩摩藩の軍備増強と思い込んでいた。 しかし思い違いとはこのことで、 7700挺もの南北戦争払い下げの新鋭武器は、 亀山社中の蒸気船で海路、長州馬関へ運ばれ、奇兵隊に横流しされた。 ≪奇兵隊は迫る幕府戦に自信をつけ、薩摩は大量の米を贈られて喜び、 亀山社中は仲介料で大儲けした≫ 我が底をさ迷う虫をいとおしむ 松井美津子 武器の売買となれば、 幕府への気遣いから、売りを遠慮する外国商人の多い中で、 グラバーには、先見の明があった。 長州へ支払い条件を立て、 「米か絹でよい。そのなかに小判が交じっておればなお良い」 とした。 奇兵隊への支援を、約束したのである。 そのグラバーへ話をもっていった龍馬もまた、先見の明があった。 当時、善悪いろいろな商社がひしめきあい、 グラバー商会だけが、通商の窓口ではなかったからである。 龍馬のビジネスを通じて、薩摩と長州とのわだかまりは、溶けていく。 五円玉の穴満天の星が湧く 竹下くんじろう PR |
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