雨風にさらされている耳の位置 小川佳恵
戦が終り繁栄がはじまる江戸
「江の新しい戦い」
豊臣が滅び、徳川の世となり、平和な世の中となった。
だが江には、「次の戦い」があった。
夫・秀忠の後継者争いだ。
乳母のお福に預けていた竹千代より、
自分の手で育てた国松に、愛情を注いでいた江は、
伯父・信長の面影の残る国松に、
第三代将軍を継がせようと思っていたのだ。
舞台反転 印鑑を捺すたびに 赤松ますみ
駿府城家康坐像
ところが、お福の駿府での直訴に、
家康が、「長幼の序」の必要性を説き、
長男の竹千代を、跡継ぎに決めてしまった。
江は腹を決め、竹千代と向き合って、
将軍に必要なことをじっくりと語って聞かせる。
横からお福が、口を挟もうとするが、
江の気迫は、それを寄せつけようとしなかった。
斬り捨てるときの木蔭を探さねば 森中惠美子
元和2(1616)年正月末、
駿府城で家康が倒れたという報せが、
江戸城の江たちのもとにもたらされ、
江と秀忠は駿府に赴き、家康と最期の別れをした。
そのとき、家康は秀忠の隠し子・保科正之の存在を明かす。
そして、数日後の4月17日、
家康は、75年の波瀾の生涯を閉じた。
省かれた形に朝が白みだす 美馬りゅうこ
江戸日本橋に入る大名行列
元和4(1618)年、秀忠は戦乱のなくなった世の中で、
将軍職を全うする為には、
「政務の場と生活の場を分けることが大切だ」
と言い、
生活の場を「奥」、
政務の場を「表」と区別する「大奥法度」を作った。
マタタビのエキスを目薬に混ぜる 井上一筒
元和9年(1623)、元服し名を竹千代から、
「家光」に改めた徳川家の長男は、
7月27日、伏見城で将軍宣下を受け、
三代将軍・「徳川家光」が誕生した。
それに伴い、秀忠は大御所となった。
≪それより三年前の元和6(1620)年には、
後水尾天皇25歳へ14歳の和子の入内が決まっている≫
改札の向こうにあすという流れ 奥山晴生
千 姫
『余談-1』・・・「千は弟思い」
竹千代は病弱で、吃音であったとも言われ、
母のお江に愛されずに育ち、
女性の好みが、とても難しい人だった。
男色の噂さえあり、大奥へ渡ることも稀で、
世継ぎができず、周りにいる者の気をもませた。
めがねかけて裏返してもサンマなり 壷内半酔
ただ家光には、尼僧好みという一風変わった趣味があって、
伊勢の慶光院の住職でった尼さんを還俗させ、
側室にしている。
千姫が秀頼の短冊を納めた尼寺の、
眉目秀麗な尼さんである。
この尼さんを連れてきたのが、
家光と同腹の姉、千姫であった。
とても仲のいい姉弟だったから、好みの難しい弟のために、
姉が一肌脱いだということだろう。
筋書きの通りに行かぬ穴がある 西内朋月
武家諸法度
『余談ー2』・・「武家諸法度」
慶長20年7月7日、家康・秀忠の命により諸大名は、
伏見城に集められ、本多正信から、
「このたび武家の法令をおおせいださる」
と会合の目的を宣言された。
つづいて僧侶・崇伝が、
武家の法令・「武家諸法度」が読み上げられる。
注目は、幕府が一の目的として打ち出した、
「禁中並公家諸法度」だろう。
「天皇や公家は、今後一切政治に関与せずに、
学問に専念すること」 と言うのである。
≪これによって、朝廷は、政治から完全に切り離されることになる≫
とんがり帽子の屋根が夕日を串刺しに 籠島恵子
『余談ー3』・・「参勤交代」
諸法度のもうひとつの注目点は、参勤交代の制度である。
秀吉の聚楽第時代の習慣・強制を刷りなおしたもので、
人質のように、妻子を江戸に住まわせ、
大名行列を仕立てさせることで、
大名の財力を削ぐ目的があった。
この大名を苦しめた強制が、宿場町を繁栄させ、
江戸が大都市になっていく要因にもなったのである。
城下町ここだけ風が動かない 太田扶美代
宿場を進む参勤交代
「諸大名に厳守を命じた法度」
の内容とは、国元と江戸とを、
1年交代で往復する「参勤交代」を義務づけ、
大名の妻子は、江戸に住むことを強制され、
1年おきに江戸と国元で過ごすことを義務づけた。
≪規定では、在府・1年・在国・1年であるが、関東の大名は半年交代であった≫
参勤交代城は死ぬまで痩せていた 小川しんじ
大河ドラマ「お江」-第44回・「江戸城騒乱」 あらすじ
秀忠(向井理)は、伏見城に諸大名を集め、
「徳川政権下で武家がどう振る舞うべきか」
を定めた『武家諸法度』を発表。
長く続いた乱世の終りを宣言する。
江(上野樹里)とともに目指す” 太平の世 ”に向けて、
大きな一歩を踏み出したのだ。
指なめて明日のページを繰っている 谷垣郁郎
だが江戸にいる江は、
徳川家が、淀(宮川りえ)や秀頼(太賀)たちを、
死に追いやったことに、
深い悲しみと責任を感じ、食事ものどを通らない状態。
そのうえ、「淀たちには死んでもらう」
と決断したのが秀忠だと知らされ、
さらに大きな衝撃を受ける。
ギシギシと地球の軋む音がする 新川弘子
そんな中、常高院(水川あさみ)と千(忽名汐里)が、
江戸に移されてきた。
3人でひとしきり泣いた後、
常高院から淀の最後の文を手渡される江。
文には、
「するべきことをした秀忠様を恨まないように」
と記されていたが、
江は父を許せないという千が、憐れでならず、
夫の非情な決断に対して、
複雑な思いを拭い去れない。
泣き言はお止し湿度が高くなる オカダキキ
やがて、秀忠が江戸に帰還した。
秀忠は、自分を出迎えた江に、さっそく戦の経緯を話し、
「最後の決断については、憎まれてもしかたがない、
だが乱世を終わらせるには、必要なことで悔いてはいない」
と述べる。
江は、夫の胸の内を理解しながらも、
太平の世のために、多くの人が犠牲になったことを、
どうとらえていいのかわからない。
「この胸が裂けてしまいそうなのです」
と、江は自身の混乱を夫にぶつける。
それを受けて秀忠は、江にある覚悟を語る。
アナログの窓に埃も木漏れ日も 岡谷 樹
一方、「父に夫を殺される」 という重すぎる現実に耐えかね、
泣いてばかりいる千。
国松(松島海斗)は、そんな姉になぐさめの言葉をかけ、
江を感心させる。
実は、竹千代(水原光太)も、
同じように千を心配していたが、
引っ込み思案な性格ゆえ、
弟のように声をかけることができず、
ただ物陰から見守るばかり。
しかし、常高院だけは、姉を思う竹千代の優しさに、
気がついていた。
秋風にあなたが言いかけたことば 河村啓子
そして、息子たちに対する江の接し方の違いが気になり、
江と秀忠に、
「もっと竹千代の話を聞いてみては」
と提案する。
「竹千代と国松、どちらが世継ぎにふさわしいか見極めたい」
と考えていた秀忠は、よい機会と考えてその提案に乗り、
ある日、2人の息子を呼び出す。
城は今節電中で悪しからず 合田瑠美子
[4回]