まず生きてほしいと思う血の絆 たむらあきこ
常高院像(常高寺所蔵)
「初(常高院)の生涯」
亡母の遺志を継ぎ、妹たちを守ることに必死になる姉・茶々と
秀吉の政の道具とされながらも、
たくましく生きる妹・江にはさまれて、
多感な時期を過ごした初。
次女という立場は、後年、
初に思いもよらない役回りを、担わせることになる。
この初が嫁ぐのは、18歳、天正16年(1588)のことである。
少女から女へ雪解けが始まる 板野美子
京極高次
初が嫁いでいく相手は、”蛍大名”と揶揄され、
”戦国一のブレ大名”といわれた京極高次。
初よりも7つ年上で、永禄6年(1563)生まれ。
”本能寺の変”に於いて、高次は明智方の味方をし、
秀吉の長浜城を攻めた。
そのため、秀吉方の追及を受け、
姉・竜子の嫁ぎ先若狭・武田元明を頼り、逃れるも、
頼りとした元明は、秀吉に滅ばされる。
ところが、竜子が秀吉の側室であったことから、
その口添えで、高次は秀吉に帰参が叶い。
その後、九州征伐、小田原征伐の功で、
近江・大津城主6万石を得ていた。
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慶長5年(1600)、石田三成と家康の対立のとき、
淀と徳川家に嫁いだ江との溝が、深まるなかで、
初は、懊悩していた。
夫の高次はどちらにつくのか?
高次もまた、徳川と豊臣の対決の前に、苦悩を深めていた。
そして、一度は、三成に協力を約し、高次は北国に出陣した。
が、何があったか、高次は、突如進軍をとりやめ、
大津城に引き返してしまった。
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なんと高次は、家康率いる東軍に、寝返ったのだ。
しかし、大津城で西軍1万5千の兵に取り囲まれ、
初も夫とともに、12日間の籠城戦を耐え抜いたものの、
ついに開城する。
高次は降伏した責めを負い、剃髪して高野山に入った。
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大津城開城の翌日、家康と三成は関が原で激突し、
天下分け目の戦の軍配は、家康に上がる。
大津城は、西軍に明け渡したが、
「関が原の合戦の前日まで西軍を引き留めた」
という功績が認められ、
高次は、その後、
若狭・小浜城主8万5千石を、家康から与えられた。
くしゃみした弾みにプライドが消える 谷口 義
その後、勝利に酔う間もなく家康の怜悧な目は、
豊臣秀頼と淀を睨んでいた。
関が原の戦いの9年後、夫を亡くし、剃髪して、
”常高院”となっていた初は、
関が原での心痛を胸に、
徳川・豊臣両家の和睦の使者となるべく、懸命に奔走した。
淀と江の絆をつなぐのは、
「自分しかいない・・・」
常高院は、その一心で女の身でありながら、
両家の間を行き来する。
木枯しの昨日をクリップでとめる 本多洋子
しかし、その願いも空しく、
徳川・豊臣の最後の決戦となった”大坂夏の陣”で、
姉・淀は、母・市の運命をなぞるかのように、
炎の中で果てた。
飛行機のネジが大小落ちてきた 井上一筒
天下人・秀吉の継嗣、秀頼を産んだ淀、
二男五女をもうけた江とは異なり、
常高院は、生涯ただひとりの子どもも、産むことはなかった。
しかし、まるで実の子どもを慈しむかのように、
常高院は、養女とした江の娘をはじめ、
高次の側室の子どもや、
侍女・小姓にいたるまで、深い愛情を注いだ。
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小浜市・常高寺
≪生前に仕えた侍女7人の墓と、向かい合うようにして常高院の墓がある≫
姉妹を引き裂いた悲しい記憶こそが、
平穏な暮らしを求める祈りにも似た想いを、
抱かせたのかもしれない。
そして、1633(寛永10)年、常高院は静かに逝く。
享年64。
もっとも長命だった常高院の死をもって、
「浅井三姉妹の波乱の物語」も幕を下した。
≪蛍大名の由来は、姉・竜子や妻・初の七光りで、生き延び、
出世していったことから言われ、また風見鶏的性格でもあったようだ≫
誰がために泣くのか月の小面よ 森中惠美子
「大河ドラマ・お江ー第19回-『初の縁談』 みどころ」
初は、京極高次(斉藤工)と話してから、
尚更、恋心が募っていった。
あれほど大好物だった菓子も、高次が嫌いだと
言うので、手を出さなくなっていた。
だが、ひとつ懸念があった。
とらわれの身である自分達は、
自由に好きな相手に、嫁ぐわけにはいかなかったのだ。
特に織田信長の姪という立場から、
秀吉の政の道具として使われる運命にある。
生き様は弦の弛んだバイオリン 高島啓子
初(水川あさみ)は、そのことを茶々(宮沢りえ)に話し、
なんとか秀吉(岸谷吾朗)に話して貰えないかと頼む。
だが、それは無理な話だった。
先日、茶々は秀吉の「側室に」という申し出を、
断ったばかりだったからだ。
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ある日初は、偶然に高次と会った。
初の悩み事など知らない高次は、親しげに語りかけて来る。
それがまた、初を悩ませ、また苛立たせた。
そして、その感情は言葉として現れた。
「私が嫌いなのは、あなたのような男です!
仕官の道を得るため、
おのれの姉を側室に差し出すような男です!」
高次に嫌いなものを聞かれ、心にもないことを言ってしまった。
初だった。
片意地を張ってしまったとうがらし 山口美千代
「何故、そんなことを言ってしまったのか」
と、初は後悔した。
その初の思いや言葉が、茶々の心に深く突き刺さる。
そして、夜遅く、茶々は密かに秀吉と会うことにした。
秀吉と会った茶々は、
「初の純情な思いを、遂げさせてやりたい」と言う。
やおら秀吉は、言葉をきりだした。
「縁談をまとめる代わりに、わしに何かくださるのか?」
「・・・私を・・・側室になさりたいということですか?」
「そう申したら、どうなさる?」
「妹の・・・初の縁談が決まったら、お話申し上げたいと存じます」
一直線この強いもの折れるもの ふじのひろし
数日後、秀吉は三姉妹をある部屋に呼ぶ。
三姉妹が怪訝な顔で部屋に入ると、まもなく高次が入ってくる。
高次は初を前に、
「妻に迎えたい」と言う。
突然の話に驚いた初だったが、何やら逡巡しているようだった。
初には、「高次が自分の姉・竜子を秀吉の側室に出した」
という事実に、こだわりがあった・・・。
だから、そんな男の言葉を素直には信じられなかった。
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そんな初のこだわりに対し、高次の姉・竜子(鈴木砂羽)は、
「それは根も葉もない噂話で、高次が明智の家来だった頃から、
秀吉の側室だった」
と言い、高次の純粋に、初を思う心を代弁した。
その言葉を受けて、初の心の澱も取れ、
高次の申し入れを受けることにした。
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やがて、初は近江の京極家に嫁ぐ為に、大坂城を発った。
その夜、茶々は密かに秀吉と会う。
「私を・・・私の身を、お好きになさってくださりませ。
ただ、ひとつだけ・・・側室にはなりたくないのです。
・・・それだけはご容赦いただきとう存じまする」
茶々は、覚悟を決め、すべてを秀吉に投げ出すつもりだった。
泣き終えた敵が敵がとっても美しい 森 廣子
だが、秀吉は、
「お茶々様を力ずくで、手に入れるつもりはありませぬ。
ただ、それがしは、今宵こうして来てくださっただけで、
幸せにございます・・」
と言って、茶々の考えを断つと、
月を見上げ、貧乏な子供の頃、
月を餅に見立てていたことなどを、話しはじめるのだった・・・。
通りがかりの隕石と話し込む 山本早苗
[7回]