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川柳的逍遥 人の世の一家言
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せめてもの抵抗 わら半紙のつぶて  和田洋子


  54帖 胡 蝶

花園の 胡蝶をさえや 下草に 秋待つ虫は うとく見るらむ

花園に舞っているこの美しい胡蝶を見ても、下草に隠れて
秋を待っている虫は、つまらないと思うのでしょうか。

「巻の24 【胡蝶】」

三月、光源氏は六条院の池に舟を浮かべ披露する催しを開いた。

大勢の客を呼び、舟の上では演奏も行なわれ、この世とは思えぬ華やかさ。

舟は春の町から続く池を通り秋の町へ。

秋好中宮も美しさに感無量の体である。

きらびやかな余韻を残したまま、秋好中宮が開く御読経の日もやってきた。

僧侶を招きお経を読んでもらう会にも、大勢の貴族たちが集まった。

六条院の秋の町は、今度は荘厳な雰囲気に彩られる。

紫の上は、この会に桜と山吹の美しい春の花を献花した。

蝶と鳥の衣装をまとった少女たちに、

花を運ばせるという優美な演出も加えた。


祝宴のどこかに雨が降っている  河たけこ

さて、六条院に引き取られた玉鬘も、ここに来て早数ヶ月。

邸の雰囲気にも慣れ、徐々に垢抜けしていって生来の美しさが輝いている。

今や夏の御殿の西の対には、非の打ち所のない美しい姫がいて、

源氏が大切にかしずいているという。

噂はすぐに広がり、誰もが我こそこの姫の婿にと胸を焦がしていた。

玉鬘は親しみやすい性格で、誰もが好意を抱いた。

紫の上とも手紙のやりとりをするほどである。

昨日まであなたでしたね再生紙  河村啓子

ただ源氏の苦悩は深かった。

玉鬘に思いを寄せる人が多いほど、婿を決めかねていたし、

きっぱりと父親として振舞えそうになく、

いっそ内大臣に打ち明けて妻にしようかとも思ってしまう。

夕霧は自分の実の妹と信じ込んでいるから、遠慮なくしてくるが、

事情を知っている玉鬘の気持ちは複雑である。

内大臣の子たちは、まさか自分の妹とも知らず、夕霧に仲介を頼んでいる。

そのたびに玉鬘は困り果て、内大臣の娘であることを公にして欲しい

と源氏に願うが、口には出来ず、ひたすら源氏の言うがままに従っている。

もしもなんて甘い事言う頭陀袋  北原照子



実際、玉鬘は困り果てていた。

彼女のもとにラブレター(懸想文)が届くたび、


源氏はそれらの手紙をチェックして、どのように返事を出したら良いのか、

アドバイスをするまでになっている。
                                         ひげぐろ
なかでも熱心なのが、源氏の腹違いの弟・蛍宮と実直な右大将の鬚黒

そして内大臣の息子・柏木の三人である。

「幼い頃から親などないものと過ごしておりましたので、

   途方に暮れています」
と玉鬘が言うと、それに源氏は、

「それなら私を実の親と思ってください。私の並々でない気持ちが

   どれほどのものなのか、どうか見届けてくれないでしょうか」

と、本心を諸には言えず、時々意味ありげな言葉を話の中に挟みこむ。

玉鬘はそれに気付かないので、源氏はいつも溜息ばかりをついてしまう。

ため息で紙風船をふくらます  嶋沢喜八郎

一雨降った後の物静かな黄昏時、源氏は、庭を見ながら玉鬘を思い出し、

いつものようにこっそり西の対に出かけていく。

しばらくは、たわいない話をしていたのだが、ふと見た玉鬘の横顔に源氏は、

「はじめてお会いしたときは、こうまで似ているとは思わなかったけど、

   この頃では不思議なほど似ていて、

   母君ではないかと見間違えそうなときがあるのです」

と、涙ぐみながら言い、

「あの方をいつまでも忘れられず、慰めようもなく過ごして来たのですが、

   こうしてあの方にそっくりのあなたに出会って、夢のようです」

源氏は心の衝動を抑えられず、源氏は玉鬘の手を取った。

そして源氏はそっと召し物を脱ぎ、玉鬘の横に添い寝をするのだった。

駄目もとで一寸ちょっ介出してみる  吉岡 民

玉鬘は源氏の豹変に驚くばかり、そして後から後から涙が溢れてくる。

無垢な玉鬘は知らず知らず、拒否の態度をとってしまう。

源氏は「まさかそれほど嫌われているとは、思わなかった」

と溜め息をつき、「ゆめゆめ今日のことは、誰にもいわないように」

とだけ言い残して立ち去っていく。

玉鬘は、今まで男女関係の経験がまったくなかった。

男と女にこれ以上の接し方があるなど、夢にも思わなかった。

そして誰もが源氏が親代わりに、親切に世話をしていると信じ込んでいる。

寄り添っているのに影に無理がある  三村一子

翌朝、源氏から手紙が届く。

「何もかも許しあって共寝をしたわけではないのに、

   どうしてあなたは意味あり顔でなやんでいるのでしょう」

返事を書かないのも女房たちの手前、具合が悪いので玉鬘は、

「お手紙拝見しました。気分が悪いので、返事は書きません」

とだけ書いた。

源氏はいったん自分の思いを打ち明けたあとは、嫌われようが、

遠慮することなく、直接かき口説くことが多くなった。


玉鬘は追いつめられた気分になり、ついに病気になってしまう。

神は何故ヒト科に涙与えたか  みぎわはな

【辞典】 玉鬘に恋慕する三人の恋文

源氏の異母弟である蛍宮は、源氏に仲介を頼りに、恋文を書き綴る。
内容は、心を寄せてからまだ日も浅いのに、「早く思いをとげたい」と
いうような拙速にはしり、つらつら愚痴を書き連ねている。
次に鬚黒、名の通り鬚ずらの浅黒い顔はいかめしいが、性格は実直。
「恋の山路で孔子も転ぶ」という諺のように、切々と自分の思いを伝えた。
最後は、内大臣の息子・柏木。源氏の評価もかなり高い真面目な人物。
彼は、綺麗な紙を丁寧に小さく結んだものに、見事な筆跡で今風の洒落た
文面を贈った。
三人の恋文を見た源氏が一番高いポイントを柏木の手紙だった。

どちらかの男に丸をつけなさい  嶋沢喜八郎

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