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川柳的逍遥 人の世の一家言
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水で酔えるのも血液型のせい  井上一筒


 末摘花の琴を聴く源氏

もろともに 大内山は 出でつれど 入るかた見せぬ 16夜の月

(一緒に宮中を出たはずなのに、行方をくらましてしまわれて…
    まるであなたは16夜の月です)
末摘花の巻には、14の和歌が詠われている。
上記の和歌は頭中将が源氏を尾行し姿を現したときの歌。

「巻の6【末摘花】」

ある日、乳母の子の大輔命婦が言うには、

故常陸宮の姫・末摘花が琴を唯一の友としてひっそり暮らしているという

興味を抱いた光源氏は、さっそく十六夜の朧月夜に常陸宮邸を訪れた。

そこは荒れた風情の邸。

聞こえてくる琴はうまくはないのだが、楽器が高級らしく聞き辛くはない。

そして源氏が寝殿近くから覗こうとしているところへ、

あとをつけてきた頭中将が声をかけてきた。

「どこに行くかと思ったら、こんなところにいい人を見つけたな。

   では、求愛競争をしよう」と言う。

アスファルトの裂け目からプレイボーイ  森田律子

その後、2人は競うように末摘花に手紙を書くが、なしのつぶてで、

いっこうに返事が来ない。

業を煮やした源氏は命婦の手引きで、末摘花の元に潜り込み契りを交わす。

このときは暗い中の出来事で、末摘花の顔も見られず、

そんな逢瀬が何度か続いたが、愛嬌もなく、何事にも古くさい末摘花に

味気なさを感じ、やがて足も遠のいてしまう。

君の名を書いて消します曇り窓  嶌清五郎

雪の降るある日、あまりに姫君が可哀そうだという命婦にほだされて、

再度訪れた源氏だったが、翌朝、一面の銀世界の中で見たのは、

あまりに醜い末摘花の容貌だった。

座高が高くて痩せぎす。

鼻は象のように長くて先は赤い。

顔は青白く、額は広くて、顔が長い。

取り柄といえば、長い黒髪ぐらい。

一度は愕然とした源氏だが、あれほどの不器量も滅多にないということで、

後見もない身を案じて、「見捨てずに面倒をみよう」と思うのだった。

甲冑を脱ぐと人情交叉する  上田 仁


   琴の音を聞き頭中将と賭けをする源氏

【原文】 「(紫式部)の末摘花の容姿描写を読む」
紫式部の性格の中の意地悪さが確りと出ている文章をどうぞ。

見ぬやうにて、外の方を眺めたまへれど、後目はただならず。
「いかにぞ、 うちとけまさりの、いささかもあらばうれしからむ」
と思すも、 あながちなる御心なりや。
   (見ないようにして、外の方に目をやるが、横目は尋常でない。
 「どんなであろうか、見馴れて少しでも良いところを発見できれば、
   嬉しいが」
と、思うのも、身勝手な考えというものだろう。

まづ、居丈の高くを背長に見えたまふに、「さればよ」と、胸つぶれぬ。
うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、鼻なりけり。ふと目ぞとまる。
普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、
先の方すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。
(まず座高が高く胴長に見えたので、「やはりそうであったか」と失望した。
   引き続いて、ああみっともないと見えたのは、鼻なのであった。
   ふと目がとまる。普賢菩薩の乗物と思われる。あきれて高く長くて、
   先の方がすこし垂れ下がって色づいていること、特に異様である)

まなざしの優しさ錯覚だっていい  佐藤美はる

色は雪恥づかしく白うて真青に、額つきこよなうはれたるに、
なほ下がちなる面やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。
痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、 肩のほどなどは、
いたげなるまで衣の上まで見ゆ。
「何に残りなう見あらはしつらむ」と思ふものから、
めづらしきさまのしたれば、さすがに、うち 見やられたまふ。
(顔色は、雪も恥じるほど白くまっ青で、額の具合がとても広いうえに、
   それでも下ぶくれの容貌は、おおよそ驚く程の面長なのであろう。
   痩せ細っておられること、気の毒なくらい骨ばって、
   肩の骨など痛々しそうに着物の上から透けて見える。
 「どうしてすっかり見てしまったのだろう」と思う一方で、
   異様な恰好をされているので、さすがに、ついつい目が行ってしまう。

世迷言のせて笹船押し流す  安土理恵

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虹はお空のフレスコ俯瞰図に置く  山口ろっぱ


   若 紫

見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがてまぎるる わが身ともがな

(やっと逢えたけれど、次に逢える夜はもう当分に来ないだろうから、

  このまま夢の中に消えてしまいたいと思っております)

「巻の5【若紫】」

光源氏18歳、瘧病(わらわ)の治療のため北山の寺にきていたときのことである。

ここで出会ったのが、あの藤壺によく似た美しい少女。

散歩などしているところに、少女がやってきた。

少女は真っ赤に泣きはらした眼をこすりこすり、

「雀の子を犬君が逃がしてしまったの、伏籠に入れておいたのに」

とお守り役の尼(祖母)に訴えている。

尼は、「こっちにいらっしゃい」と言い少女を自分の膝の上に座らせ、

「あなたはどうしていつまでもそんなに幼いのかしら。

私の命が明日をも知れないのに」 と諭しながら連れ帰る。

この少女が若紫である。

そうだねぇ菫色って言うのかねぇ  河村啓子

源氏は美しい若紫を見ている中、恋い焦がれている藤壺のことを思い出し、

涙ぐんでしまう。

聞いてみるとこの少女は、

源氏の義母であり恋しい人でもある藤壺の姪だという。

母親を早くに亡くし、兵部卿宮という父親がいるにはいるが、

そこには別の正妻がいるので、尼である祖母に育てられている。

源氏はこの少女があの藤壺の姪と知って、なおさら興味を抱いた。

そして可哀想な境遇の若紫を源氏は、側に置いて育てたいと思うのだった。

さっそく「この子を自分の養女に」と申し出るが、

突然の申し出ということで、簡単には承諾されない。

似ていると言われ嫌やわと答える  石橋能里子

やがて療養も終わり、源氏は妻・葵の上のもとに帰るも、

 相変わらず妻とは気持がすれ違うまま。

葵の上の父・左大臣は、源氏に気をつかい娘に注意をするが、

葵の上はしぶしぶ従うだけ。

源氏と2人きりになっても他人行儀のつれなさ。

そんな境遇におかれた源氏は、ますますあの若紫への想いが募った。  

そんな折、源氏は体調を崩した藤壺が宮中から一時帰宅することを知る。

この機を逃してはならぬと、源氏は王命婦(おうみょうふ)という女房の手引きで、

短いながらも藤壺との密会を果たす。

スキ好きすきと炎くぐってくる恋慕  百々寿子

ところが藤壺は、深く思い悩んでいる様子。

以前、源氏と間違いを犯してしまったときのことを悔い、

「もう二度とそんなことはしてはならぬ」と思っていたからである。

源氏は夫・桐壷帝の実子。

つまり藤壺は義理の母親でもあるのだ。

そして運命のいたずらにより藤壷は、この密会で源氏の子を宿してしまう。

桐壷帝は藤壺の懐妊を聞くと大いに喜び、

「自分の子ができた」とますます妻への愛情を深めていく。

藤壺は帝に優しくされるたびに、罪の重さに恐ろしくなるばかり。

ため息を吐く時 森は深くなる  徳山泰子

一方の源氏も、最近は怖い夢ばかり見る不安定な精神状態。

心配になって占い師に見てもらうと、占い師は、

「将来、あなたは帝の父親になるでしょう」ととんでもないことを言い出す始末。

源氏も「世間が祝福して、騒いでいる藤壺の懐妊は、もしやあの夜の…」

 と不安を抱くのだった。

妻にも馴染めず、藤壺の懐妊に疑いと不安を持っていた源氏は、

「せめてあの美しい少女を」 と気を変えてみるのだった。

そして若紫を育てる尼のもとに何度となく手紙を出して、

「ぜひ、養女に」と打診をしているが、なかなか色よい返事はもらえない。

焦点がずれて傷心深くなる  山本昌乃


    幼い若紫

そうこうしているうち、しばらく日が経ち、源氏が久しぶりに手紙を出すと、

その内容は思わぬ内容だった。

あの病弱だった尼が亡くなったというのである。

源氏はさっそく若紫を訪ねていった。

屋敷はすっかり荒れ果て、見るからに薄気味悪い。

こんなところで頼るべき人を亡くし、幼い若紫はさぞかし心細かろうと、

源氏は胸が締め付けられる思いがした。

そこで源氏は、若紫の行く末について乳母に確かめたところ、

若紫は、父親の兵部卿宮が引き取ることになったという。

かき混ぜた言葉が不意を突いてくる  佐藤正昭

しかし亡くなった尼もこの乳母も、父親と住まわせるのが心配だった。

兵部卿宮の正妻はその昔、今は亡き若紫の母親に、

大分辛くあたった人で、そして子沢山。

そんな中でおざなりに育てられるのではないかと、危惧するのであった。

バンカーも池もありますご用心  吉岡 民

まもなく、惟光からの報告によると、

明朝、兵部卿宮が若紫を引き取りにくるという。

若紫が父宮のもとに行ったら、もう今までのように会えなくなる。

源氏は夜明け前に惟光を伴って、若紫の屋敷にかけつけ、

強引に乳母ともども若紫を、自分の屋敷に連れ去るのである。

兵部卿宮が屋敷に迎えにきたときは、若紫の姿はどこにもない。

兵部卿宮は落胆し、どうせ少納言が娘を継母のいる自分の屋敷に

連れて行くのを嫌って、姿を隠したのだと嘆いた。

こうして若紫は二条院で暮らし育てられることになった。

ここで若紫は、「紫の上」と呼ばれることになる。

さようならぴったり糊をつけていく  竹内ゆみこ

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右足はもう結界を踏んでいる  森田律子


    夕 顔
箒木三帖ー「帝の子といっても、すべて清廉潔白なのはウソっぽい」
という意見に対し、少し不謹慎な色恋沙汰の話を挿入した、というのが、
箒木・空蝉・夕顔の三巻で「箒木三帖」と呼ばれている。

「巻の4 【夕顔】」

光源氏が病気の乳母を見舞いに出かけたときのこと。

粗末な家の垣根に咲く、朝になるのを待たずに萎んでしまう

哀れな夕顔の
花を見つけます。

「可哀想なさだめの花だなぁ 一房取ってまいれ」と源氏は従者に命じます。

すると粗末な家から可愛い女の子が出てきて、

従者が折り取った夕顔の花を「これにのせてお持ちなさい」

と香を焚き閉めた白い扇を渡してくれた。

その白扇には、恋文のような意味深な和歌が書かれていました。

心あてに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花
(ひょっとしたらあなたさまかと思いました。
 白露の光を添えている夕顔の花のように美しい方なので)
心あてには、あて推量をすること。白露の光は源氏のこと。

源氏はこの歌を詠んだ人に、その場で返歌を書き従者に遣わします。

寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 花の夕顔
(たそがれどきにほのかに見た夕顔という花の夕方の顔よ)

これが夕顔との出会いでした。

さりげない一言渦となってゆく  山本昌乃



源氏は和歌に心を奪われ、歌の主の女性のもとに通いはじめるようになる。

しかし相手の住まいは粗末な家。

世間を気にして源氏はいつもお忍びである。

名を明かさぬ源氏に、女性も正体を知らさぬまま、

女性を「夕顔」と呼び、2人は逢瀬を重ねます。

8月15日の満月の夜、いたずら心を起こした源氏は夕顔を誘って、

「この住みかを出て、どこか近いところで夜を明かしましょう」と言う。

素性の分からない男と、行き先も分からずに出かけるのは、

さすがの夕顔もためらわれた。

すると源氏は軽々と略奪同然に夕顔を持ち上げ車に乗せた。

そして車は廃墟と化した屋敷についた。

いにしえも かくやは人の まどいけん わがまだ知らぬ しののめの道
(身分の低い女とのはじめての体験に、源氏が興奮をしている様子)

夕日しか見えない窓に立たされる  八上桐子

夕顔は荒れ果てた屋敷の様子に怯えている。

源氏はひたすら震えている夕顔の様子を、可愛いと思っている。

源氏はこれほど深い仲になったので、

今さら隠し立てしても仕方がないと思い、姿をさらした。

夕顔も、男が源氏だろうとは、うすうす感じていた。

実際に源氏を目のあたりにして、その息を呑むほどの美しさに感動している。

だからこそ、わざと自分を卑下して、夕顔は気持とは裏腹の歌を詠んだ。

光ありと 見し夕顔の 上露は たそかれ時の そらめなりけり
(光が添えられて輝いて見えた夕顔の花の上においた露は、
 黄昏時の私の見間違いでした)

ハタキをかけると光源氏でした  加納美津子

宵を過ぎる頃、源氏は少し眠ってしまった。

すると、枕元に美しい女が座っている。

「私がこんなにお慕いしているのに、少しもお訪ねくださらず、

   つまらない女を愛されていらっしゃるのが恨めしい」

源氏はぞっとして太刀を抜くと、女の幽霊は消えた。

源氏は慌てて夕顔を手で探ってみたが、息をしている気配がない。

源氏は驚き、夕顔を起こそうとするが、彼女の体は冷たくなるばかり。

息は完全に途絶えている。

そのとき時間は止まった。


源氏の胸に空洞が出来た。恐ろしいとも、悲しいとも思わない。

闇の中で、自分の魂がさまよっている。

つるつるをザラザラにして終える恋  上田 仁
                 これみつ
急を聞き駆けつけた腹心の惟光の進言で、源氏はその場を離れた。

亡骸は、惟光と夕顔の侍女である右近が寺へと運び、、

葬儀は内密に行なわれた。

源氏は嘆き悲しみ、右近に彼女の正体を尋ねた。

聞けば、頭中将が雨の夜に話したあの「行方知れずの女性」だった。

頭中将と恋仲になるも、奥さんの嫌がらせが怖くなり、

粗末な家に隠れていたのである。

一昨年の春には、頭中将の落としだねである女の子も生まれている。

椿落つ由緒正しき孤の音で  中野六助



【辞典】-和歌
源氏物語の全54巻のそれぞれには、もれなく和歌が挿入されています。
当時の恋愛の育み方は、手紙に和歌を書き、それをやりとりして、
互いの気持を確認しあうというのが、王道でした。
恋愛は源氏物語の大きなテーマの一つ。
この夕顔では19句。多い所では10巻33句、12巻48句、13巻30句等。
全体で795句の和歌が挿入されています。作中の人物の心理を見事に描写して
源氏物語を書き進めていく、紫式部の才能の豊かさが伝わってきます。

降り注ぐ鱗粉イパネマの娘  酒井かがり

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いつの日か笑い話と涙ふく  笠原道子


  空蝉と軒端荻(それを覗き見する源氏)

空蝉の 身をかえてける 木のもとに なほ人がらの なつかしきかな
(蝉の抜け殻のように衣を残し去っていったあなた、
   それでもあなたの人がらが懐かしくおもわれます)

「巻の3 【空蝉】」

一夜の契りを空蝉が忘れられない光源氏

頼みの綱は、空蝉の弟・小君です。

小君は、子どもながら懸命に機会を見つけ、

紀伊守が留守のときを見計らっては、源氏を邸に導きました。
                 のきばのおぎ
忍び込んだ源氏は、囲碁を楽しむ空蝉と軒端荻(紀伊守の妹)を、のぞき見する。

以前、契りを結んだときは夜だったので、

空蝉の姿はよく見えなかったが、
今回は横向きながら、

表情をみることができた。


でも、実際に目にした空蝉は、それほど美人ではない。

品はともかく容姿だけなら、相手の軒端荻のほうが、

美しいと源氏は思った。


泣ききれず忘れきれずに風のまま  桑原すゞ代

夜も更け、碁を打ち終えた2人は、部屋へ戻っていった。

源氏は闇に紛れて空蝉の寝床へ忍び込むが、

人の気配を素早く感じ取った空蝉は、
   うちぎ
薄衣の小袿だけを残して一足さきに部屋を出ていた。

そうとは知らない源氏は、その場に寝ていた女に寄り添うが、

どうも勝手が違う、よくよく確かめてみると、その女は軒端荻ではないか。

今さら人違いだとも言えない源氏は、その場をうまく取り繕って、

軒端荻をだまし、契りを交わしてしまう。

それでも源氏の傷心は癒されず、空蝉の残した小袿を持ち帰り、

ふたたび子君に手紙を託すが、返ってきたのは、

人妻だけに源氏の気持に
応えられない自らのもどかしさを語った

和歌だけだった。


空蝉の 羽に置く露の 木がくれて 忍び忍びに 濡るる袖かな

出がらしを出したらそれでさようなら  森田律子


   空 蝉

【辞典】「平安時代の恋愛事情」

平安貴族女性にとって、顔を見せ合うのは、男女の睦みごとの時ぐらいで、

男性に顔を見られるのがとても恥ずかしいこととされていた。

だから貴族の邸には、空間をさえぎるパーティションのような家具がある。

簾や屏風、几帳などがそれで、男と女はこれらをはさんで会話を交わした。

大抵は、内側にいる女性からは透けて外が見え、男性側からは見えない。

それでも顔が見えそうなときは、扇を広げて隠した。

だから扇は女性がいつも身近におく必需品なのだ。

カーテンを替えてけじめの春にする  下谷憲子

ところで、源氏物語には、「垣間見」という行為が頻繁にでてくる。

今で言う、「のぞき」である。普段女性の顔を見られない環境で、

男性が恋を進展させる常套手段だったのである。

男は直に女を見ることができない。

では、どうやって恋愛を育んでいたのだろう?

また、どのようにして女性の美人度を知りえたのだろう?

背伸びしても見えない物は見えません  安田忠子

先ず、お姫様の容姿を間近に見ている お付の女房たちの噂話などから、

男性は想像を膨らませ、相手の身分や権勢などを考慮して、

和歌を盛り込んだ恋文で、アタックを開始する。

その途中、うまく行けば垣間見ができ、それで一層恋心を募らせる。

和歌を受けた女性のほうは、相手の身分や噂、和歌の出来具合などを

考慮して、
一人を選び返歌する。

この歌の交換で心が通じ合えば、女房の手引きでこっそりと

女性の部屋に入ることができるのである。

ああ恋ってしょっぱいなァ苦いなァ  佐藤美はる

夜のことだから、2人は暗闇の中で互いに香りと手探りで相手を確かめ合う。

闇に紛れてこっそり通ったんだから、

明け方も暗いうちにこっそりと女の部屋を出て行かなければならない。

ところが当時は時計というものがない。

そこで一番どりが鳴けば、もうお別れの時間ということになる。

切ない鳥の声がよく歌に詠まれるのは、こうした理由があった。

隠しごとするから夜が好きになる  嶋沢喜八郎 

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うつろばかり仰いで首が痛くなる  清水すみれ


   源氏12歳

「巻の2 帚木【ははきぎ】」

光源氏は、12歳のときに元服した。
そいぶし
添臥には、左大臣の娘・葵の上が決まった。


「元服加冠」の儀を終えた東宮,皇子など身分の高い男子には,

当夜女子を選んで添い寝をさせる風習があり,選ばれた女子を添臥という。

その結果、源氏は左大臣家の婿となり、

以後一切の
面倒を左大臣家が見ることになる。

源氏にはじめて有力な後ろ盾ができたのだ。

桐壺帝と左大臣家という有力な後ろ盾を持った源氏は、

左大臣家をしのぐ権力の基盤を持ったといえる。

源氏よりも4歳年上とはいえ、葵の上もまだ16歳。

右大臣が東宮妃にと願い出ていたが、

左大臣はあえてそれを断って、
臣下に下った源氏と結ばせた。

おかしくてちょっと悲しいそんな朝  森田律子

葵の上は、幼い頃から将来の后となるべく、大切に育てられていた。

美しく、しかし気位が高く、人を愛するということの

本当の意味を知らない少女。


たしかに、左大臣家の娘と結ばせたのは、帝の源氏への愛情だった。

だが、幼い源氏にはそれがわからない。

彼が求めていたのは母であり、甘えられる対象だったのだ。

人形のような美少女は、彼を受け付けない雰囲気を持っていた。

そんなとき、源氏は藤壺女御のことを思った。

自分を包み込んでくれるような、慕わしい存在だった。

どんなに恋い焦がれても、二度と直接には会えない人だった。

ここにこう立つとあの日がよく見える  八上桐子


男が寄れば女性談義が始る

そして藤壺への想いを捨てきれないまま、源氏、17歳になる。

政略結婚で妻となった葵の上との関係も、

いまだぎくしゃくしたままである。


そんな源氏が、宮中で宿直勤務をしていた雨の夜、

三人の男友達が 源氏のもとを訪れ、女性談義を始めた。

そのうちの一人は、葵の上の兄で、源氏にとっては義兄でもあり、
とうのちゅうじょう
親友でもある、頭中将である。

彼らは、妻にふさわしい女性の条件などを討論し、

頭中将は以前、
中流階級の女性を妊娠させてしまった女性が、

自分の正妻から苛められて
現在行方不明になってるといことなど、

自らの体験談を披露。


「逢瀬を重ね、子供ができたのに今は行方知れずになっている女性がいる。

    常夏の君と呼んでいた人だが、知らないうちに私の正妻が嫉妬の末、

    ひどい嫌がらせをしたらしい…」と。

みんなまぼろし私を通っていった恋  安土理恵

頭中将は、当時最も将来を有望視された青年で、実際、

後に太政大臣にまで上り詰めることになる。

彼の将来性を見込んで、早くも右大臣が自分の娘と結婚をさせ

その後ろ盾になるのだが、その娘はあの弘徽殿女御の妹である。

その妻は弘徽殿女御に似て、嫉妬深く、人一倍気性が激しい。

密かに妻は、常夏の女に脅迫めいたことをしたというのだ。

悩み苦しんだ常夏の女は、そのことを頭中将にも明かさず、

こっそりと幼い一人娘を連れて姿を隠してしまったのである。

何の頼りもなく、幼い子どもを連れて、どこに行ったのか。

今頃、どれほど心細い想いをしているのだろう。

頭中将は、今になってはじめて自分がいかにつれなかったかを嘆いた。

ゆるやかにゆるやかに哀しみは帰趨  山口ろっぱ

上の空で聞いている源氏をよそに、女性談義は尽きず、夜は更けていく。

それでも話題に上った「中流貴族の女性がいい」という言葉は、

源氏に少なからぬ影響を与えた。

翌日は雨も上がり、源氏は久々に葵の上のところに顔を出す。

でも、取り澄ました妻には、まだ馴染めない。

そこで方角が悪いという「方違え」を言い訳にして、
       きいのかみ
中流遺族の紀伊守の邸に
宿を借りることにする。
                                  いよのすけ
この紀伊守の邸に泊まっていたのが、
紀伊守の父親・伊予介

若い後妻・空蝉だった。


源氏は、女性談義に登場した中流貴族の女性である空蝉に興味を抱き、

寝所に忍び込み、そして強引に一夜の契りを結んでしまう。

【辞典】 方違え=禁忌の方角に出かけるときは、直接向かわず、
      前夜に吉方の家に一泊して目的地に行くこと。

お仲間の翼も借りる好奇心  美馬りゅうこ
   えもんのかみ
空蝉は衛門督の娘で、かつては宮仕えの話もあったほどだが、

父亡き後、受領の後妻という身に甘んじていた。

源氏は、空蝉の弟・小君を通して空蝉との逢瀬を画策するが、

空蝉は人妻である自分の境遇や身分の違いなどに思い悩み、

源氏の誘いには応じなかった。

そこで源氏は、空蝉を近づくと消える伝説の木・箒木にたとえ、

恋心を訴える和歌を贈るのである。

数ならぬ 伏屋に生ふる 名の憂さに あるにもあらず 消ゆる箒木

(あなたにとって、ものの数でもない私は情けなくて、
    見えていても触れないという箒木のように消えていきます)

溶けてしまおうみーんな忘れちゃうために 竹内ゆみこ

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