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川柳的逍遥 人の世の一家言
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蹴り上げた楕円は神の領域へ  斉藤和子
 
 

          楽屋之図
 歌舞伎役者の舞台裏の様子を描いた図。 裃を身に付ける役者やカツラ
をかぶる役者、芝居関係者など、役者絵が得意な歌川国貞は芝居の楽屋
にまで入り込み、舞台の上では見られない、舞台裏を細やかに描いた。

 
 
江戸後期から明治へと長期にわたって、浮世絵画壇の覇者として君臨し
続けたのは「歌川派」であり、その礎を築いたのは、歌川豊国である。
豊国によって平明な作品たちは、より多くのファンを獲得することにな
ると同時に作品の様式化は数多くの門人を生み出すもととなった。ここ
にその豊国門下の俊才たちを紹介しておこう。そして、やはり殿に歌川
派の天才・歌川国貞をとりあげる。


浮世絵に潜んでいるのはゴッホです 木口雅裕


「豊国一門と年齢と夫々の絵師の冠」

万民のスター
歌川豊国 明和6年 (1769ー1825)
師豊国を凌ぐ実力派
歌川国政 安永2年 (1773-1810)
温雅な個性派
歌川豊広 安永3年 (1774-1830)
歌川派の総帥・三代豊国 役者絵の国貞
歌川国貞 天明6年 (1786-1864)
合巻から浮世絵までの正統派
歌川国安 寛政6年  (1794-1832)
「国安」「国丸」とともに豊国門人三羽烏
歌川国直 寛政7年 (1795-1854)
風景画の奇才
歌川国虎 (生年不詳)
風景版画の第一人者 けしきえの広重
歌川広重 寛政9年 (1797-1858)
国貞の向こうを張った武者の国芳
歌川国芳 寛政9年 (1797-1861)
初代豊国の養子・二代豊国
歌川豊重 享和2年 (1802-1835)


前略、娑婆は暑いだけです かしこ  河村啓子


「にがおえの国貞」 歌川国貞



         市村羽左衛門と尾上菊五郎  


歌川国貞は、初代・豊国が築き上げた歌川派を継承し、長期にわたって
活躍した浮世絵師である。
国貞は天明6年(1786)本所渡船場を経営するに生まれた。ちゃき
ちゃきの下町っ子である。絵の勉強は、初めは独学であった。国貞の少
年期はちょうど浮世絵界の最盛期にあたるため、手本となる浮世絵が、
たくさん手に入ったのである。とりわけ役者絵を好んだ国貞少年にとっ
ての憧れの絵師は、初代・歌川豊国であった。そこで思い切って入門を
願い出た。


宿命へ畳鰯の独り言  中村幸彦


このとき豊国が、国貞の実力試しに、手本を見せて写し描きをさせたと
ころ、仕上がりがあまりにも巧みで驚いたという。入門の許しを得て、
師匠の信頼を得た国貞は、すぐに細々とした仕事を任されるようになり、
22歳のときに絵草子の挿絵でデビューを果たす。これが大当たりを取
って、歌川派の次代を担う若手絵師として、その名を世間に轟かせた。
因みに、この年に歌川派に入門をして来たのが国芳である。国貞は、弟
弟子として国芳を「芳、芳」と呼んでかわいがったが、国芳は、この上
から目線が気にくわず、生涯国貞を煙たがったらしい。


陰と陽リバーシブルの帽子です  合田瑠美子



  国貞の描く美女にじゃれる猫


対する国貞はというと、柔和温順で人の気持ちをよく考え、自己主張を
好まない人格者だった。そんな性格を反映するように作風も明るく率直
で安心して見られるのが特徴である。下町に育ったせいか庶民的な親し
みやすさも抜群で、大衆受けする絵が自然に描けた。


花も葉も水に流して現在地  佐藤正昭



「滝夜叉姫 尾上菊次郎 梅花」
最晩年の作。鉱物性顔料を大胆に使い、迫力に満ちた画面を作り出した。


国貞が最も得意としたのは「役者の似顔絵」である。普段は冗談を言わ
ない真面目な性格だったが、役者絵のモデルになる役者と話すときは別。
現代のベテラン・カメラマンのように、冗談を言って相手の気持ちをほ
ぐしながら、いろいろな表情を引き出し、ウイークポイントを捉え、そ
の人の顔の中でいちばん魅力のあるところを似顔絵に反映させた。
役者からの信頼も厚く、家には役者からの付け届けが山のように届き、
なかなか豊かな暮らしぶりであったという。こうした人付き合いの丁寧
さが、国貞の評判をさらに上げていった。


冷やかして景気をつけて盛り上げて  田口和代



 当世美人合 身じまい芸者


「国貞の美人画」
国貞は役者絵だけではなく、「美人画」にも優れていた。むしろ下町の
庶民は絵師としての本領は、こちらの分野に発揮されたといっても過言
ではない。清長美人や歌麿美人のような、理想化された美人像とは違う
親しみやすさがった。



         「国貞の挿絵」
 さらに戯作者・柳亭種彦とタッグを組んで挿絵を描いた合巻本『偽紫田
舎源氏』が大ヒットし、これ以降、錦絵業界で源氏絵がブームになるな
ど後続の絵師たちに多大な影響を与えた。


キャンパスの龍が飛び立つ筆づかい 佐々木満作



天保14年(1843)9月、水野忠邦の失脚後、国貞は忠邦改革の的にな
って低迷する浮世絵界の巻き返しを図り、自身の二代目・歌川豊国襲名
披露の書画会を開催した。しかし、この襲名が大スキャンダルとなる。
実は国貞は正式には三代目なのだ。二代目は初代・豊国の弟子で豊国の
養子に入った豊重といううだつの上がらない絵師で、これには師匠の娘,
もしくは嫁に取り入ったらしいという裏事情があった。真面目な国貞は
これを「よし」とせず、また「人気・実力ともに十分な自分こそが、正
統な後継者だ」という自負もあったのだろう。


二週間前のトマトと高飛車と  宮井いずみ


二代豊国は、文政年間初めに初代豊国の門に入り、やがて養子となった。
初め豊重と名乗り、師風を受け継いだ堅実な作品を描いていた。文政8
年(1825)初代の没後、二代を継いだとされる。天保5年頃までの
作が確認され、「名勝八景」という風景版画の注目すべきシリーズを描
いているものの、全体としては、師の作風を墨守するところから脱しき
れなかった。


出た釘を何度打ったか痩せた槌  西陣五朗



  オレがあ豊国二代目よ


「歌川を疑わしくもなのりゐて二世の豊国にせの豊国」
文政8年に師・豊国が没したのちは、実質的な歌川派の棟梁として君臨
するにいたる。そして弘化元年(1844)には、師の豊国号を継いで
二代を名乗り、名実ともに歌川派の総帥となった。しかし、豊国の没後
間もなく養子の豊重が二代を名乗っており、実質は三代目にあたる。
それでもなお国貞が二代目を名乗ることができた裏には、初代の複雑な
家庭事情と、腕のたつ国貞を、豊国の正当な後継者とみなす勢力の優勢
であったことを示すものであろう。


不条理にさからう渦を巻きながら  笠嶋恵美子


豊国を襲名してからの国貞には、門人も増え、版元からの注文も殺到し、
作画量はこの時期にピークに達するが、さすがに濫作による価格の低下
は隠すことができない。とはいえ、人物が映えるように画面全体を整理
する構成力には相変わらず非凡なものを見せている。


斜めから吹く風斜めから躱す  岸井ふさゑ



星の霜・当世風俗 蚊帳

幕末には「もっとも人気のある絵師」であった国貞だが、現代の知名度
は今一。なぜなら、彼が描いていたのは「当時最新の流行や風俗」であ
って、当時のことを知らなければ何のことだか解らないものが大半であ
ったからである。
 「星の霜当世風俗・蚊帳」では、蚊帳の中で紙縒りを使って害虫を焼く
庶民的美人と、蚊帳の下から覗いている団扇にさりげなく、当時の人気
役者・尾上菊五郎の似顔絵が描かれている。似顔絵は、国貞の最も得意
分野で面目をはたしている。


だとしても諦めきれずにいる思い  川畑まゆみ



  星の霜・当世風俗 行灯


幕末の浮世絵界で庶民から圧倒的な支持を受けた浮世絵師は、前にも述
べるように広重でも国芳でもなく、歌川国貞だった。国貞は初代・歌川
豊国の正当な継承者として、人気流派歌川派を率いて浮世絵界に君臨し、
生涯に一万点の作品を世に送り続けた。というのも、彼の絵はとにかく
よく売れたのだ。「広重が風景画、国芳が武者絵」を得意として売れた
とはいえ、国貞が美人画・役者絵という王道二大ジャンルを制しており、
そこに割って入る隙がなかったからである。22歳のでビューから元治
元年(1864)79歳で永眠するまで、国貞は、半世紀に亘って第一
線の人気を保ち続けた。


口よりも確かなことを目が語る  ふじのひろし



      国貞自画像


順風満帆な国貞の人生にも一時、影がおちる。天保の改革の野忠邦
失脚して間もなく、国貞は、二代目・歌川豊国襲名披露の書画会を開催
した。この襲名披露が、大スキャンダルとなったのである。実は国貞は、
正式には三代目なのだ。二代目は初代・豊国の弟子で豊国の養子に入っ
豊重といううだつの上がらない絵師で、これには師匠の娘,、もしくは
嫁に取り入ったらしいという裏事情があった。世間ではこの騒動を皮肉
った上記の「偽の豊国」のように狂歌が生まれた。しかし、もって生ま
れた運の強さか、その騒動によりさらに注目が集まった。あまりの発注
の多さに版下絵の制作が追いつかず「三代豊国」というだけで売れ続け
たという。


聞えないふりして今日は切り抜けた  山口ろっぱ

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