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川柳的逍遥 人の世の一家言
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口すすぐ昨日サヨナラ言った口  清水すみれ 

ありと見て 手にはとられず 見ればまた ゆくへも知らず 消えしかげろふ

そこに見えているのに、手にとることはできず、また見てみると
どこかえ消えてしまう。愛しいあなたは、まるで蜻蛉のようだ。

「巻の52 【蜻蛉】」

宇治の山荘は浮舟の失踪で騒然となる。

浮舟の秘密に関与していた右近だけは、浮舟の悲しみ苦しみ、煩悶が並み

並みでないことを知っていたから、宇治川に身投げしたに違いないと考えた。

小さい時から少しの隔てもなく親しみ合った主従ではないか、

隠し事は塵ほどもなかった間柄ではないか、

自殺の素振りも自分の前に見せられなかったのが口惜しい。

優しい柔らかい心の持ち主だった姫が自殺などと、まだ事実を事実として

信じることができずに、ただ悲しいばかりの右近であった。

誰あれもいない回転木馬秋になる  畑 照代

浮舟自殺の知らせを受けて、母である中将の君がかけつける。

あらかたのことを知る右近は、すべての成り行きを中将に話した。

女房たちは妙な噂が世間に広まるのを防ぐため、

その日のうちに亡骸のないまま、浮舟の葬儀を終えてしまう。

功罪を残し虚ろな通夜の雨  上田 仁

匂宮は、浮舟の最後の手紙に不振を抱き事情を聞くため従者・時方を送る。

時方は右近へ面会を求めたが、「急に亡くなったので、それどころではない」

と取次ぎの対応もおざなりである。

 「そうではありましょうが、何の事情も知り得ずに帰れませんので、何とか」

と時方は必死に言うも、右近は心労で寝込んでいることもあり、取次ぎは、

「ただただ今は、皆、呆然としておりますとだけお伝えください。

  少し気持ちも納れば、どんなに煩悶をしておられたか、宮様が来られた晩に

  どのような心境に姫があったのかなど話しができるかと思います。
  しょくえ
  触穢の期間の過ぎました時分に、もう一度お越しください」

結局、時方は使いの役目を果たせず、戻っていく。

ありふれた話でいいの もう少し  阪本こみち

薫は、そのとき母の病気の祈祷で、数日、寺に籠もっていた。

そのため知らせを受けたのは、葬儀も済んだあとだった。

薫も突然の出来事が信じられなかった。

まもなく薫は山荘を訪れ、相談もなく早々に葬儀を済ませたことに不満を

抱きつつ、侍従から聞く事情を察すれば、一人人生の深い悲しみを味わって

いた浮舟の生きていた時には、それを認めようとはせずに、たびたび逢いに

行くこともせず、寂しい思いばかりをさせて来たのであろうと思う後悔が

あとからあとから湧いてくるのだった。

手触りで時の過ぎゆくのがわかる  嶋沢喜八郎

思いもよらない悲惨な結末に、涙に暮れ、匂宮は病床に臥せってしまう。

多くの見舞いが訪れるが腹心以外、病気の本当の理由を知るものはいない。

匂宮は見舞いに来た薫と顔を見ると何となく引け目のようなものを感じた。

薫は色々な世間話のあと、匂宮の知らないこととして浮舟のことを話す。

宮も御承知のあの山里に若死にをした恋人と同じ血筋の人がいると聞き、

昔の人の形見に、ときどき顔を見て慰めにしようと思ったのですが、

世間から訳もなく悪く批評をされてもと思い、山里へ連れて行ったのです。

彼女を心の人として付き合いを考えていたところ、突然亡くなってしまいました。

人生の悲哀がまたしみじみと味わされ、寂しい思いをしております」

薫としては悲しい姿は見せるまいと我慢していたが、涙が自然とこぼれた。

薫の言葉に別な意味があることを悟り匂宮だが、素知らぬ風を貫いた。

 「お目にかけたら興味をお覚えるだけの価値のある女性でしたから、

あなたの愛人にどうかと思っていたのですよ」

と精一杯の嫌みを残して薫はその場を辞した。

結婚は紙の上での事だった  井上一筒

匂宮は浮舟の思い出話などをさせるため、宇治にいた侍従を呼び寄せ、

このまま明石中宮の女房になるようにした。

侍従には、匂宮を以前、蔭で見ていた時よりやつれ哀れに見えた。

そして貴族の姫君たちだけのお仕えしている場所だと聞いていて、

そうした上の女房たちの顔を、このごろ皆見知るようになってから考えても、

浮舟の姫君ほどの美貌の人は、いないと思うのだった。

陽炎に揺れて美人に見えてくる  牧浦完次

時が流れ、明石中宮が亡き源氏や紫の上を弔う法華八講を催した。

その場で女一宮を垣間見た薫は、その美しさに魅せられ恋心を抱く。

そして、その妹である妻・女二宮に、彼女と同じ装束をさせてみたりする。

薫はそうした折々にも大君を想い、

「あの人さえ自分と結婚しておれば、こんな目には・・・」

と悔やんでも仕方のないことを、いつまでも考えていた。

昔と遊ぶ酒はやたらと塩辛い  安土理恵

一方、匂宮は女一宮に出仕している宮の君(故・式部卿の娘)に心を寄せていた。

匂宮が今まであれば、八講会に集まった女性の中の人と問題を起こしていた

だろうが、すっかりと冷静になり、性質も変わったように思われた。

ところが近頃になってまた、恋しい故人に似た顔をしている宮の君に惹かれ、

式部卿の宮と八の宮は兄弟なのだからなどと、例の多情な心は、昔の人の

恋しいためという理由に、新たな好奇心もやまず、いつとなく宮の君を恋の

対象として考えるのであった。

また宇治にいた侍従は、若い2人の貴人を覗き見て、姫がどちらにせよ

この人たちに愛され生きておられればと思い、この幸運を自分から捨てて

しまったことを残念に思うと同時に浮舟の姫をしみじみ偲ぶのだった。

人の輪のやさしい方に乗り換える  菱木 誠

【辞典】  死の穢れ

浮舟失踪の知らせを受けた母・中将の君。このとき中将の君は、
浮舟の異母妹の出産が間近に迫り、なかなか家を離れられなかった。
それが飛んでもない結末に、動揺した中将の君だったが、女房の右近の
勧めもあり、世間体を考え亡き骸があるように見せかけた火葬を行った。
当時死は穢れであると考えられており、中将の君の夫・常陸守は穢れが
そのまま自分の邸に持ち込まれ、出産した娘と生まれたばかりの孫に何
かあっては大変と危惧していた。そのため中将の君は葬儀が終わっても
暫くは自邸に戻れなかった。浮舟の隠れ家だった小さな家で過していた。
亡き骸に触れることが出来たわけでなく、生死さえ定かではない、事情を
表沙汰にもできず、悲しみに堪えていた。
そこに突然常陸守がやってきて「まったくこの忙しい時に」と文句を言う。
中将の君は、ここで初めて常陸守にこれまでの事情の説明をすると、夫の
常陸守は驚いた。驚いたことは、そんな高貴な人と付き合いがあったこと。
浮舟の婚約破棄に加担したこの父親が、手の平を返すように娘の死を嘆く。
あんなに死の穢れを嫌っていたのに。

三角に握ってすます了見ね  山本早苗

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