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川柳的逍遥 人の世の一家言
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正一位泥の小袖を着て踊る  井上一筒

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平家による強権政治を、象徴的に物語った平家物語-章段。

「禿髪」-かぶろと読む。

清盛が栄華を誇っていたとき、

平家のことを軽んじるものがないよう、

14~16歳の童を300人集めて、

頭髪を禿髪にそろえて、

赤い直垂(ひたたれ)を着せて召使い、都中に放った。

禿髪=髪の先を切りそろえて結ばずに垂らしたおかっぱ頭のこと。

鎌首を少し余して立ち去りぬ  筒井祥文

そして、平家を悪しざまにいう者があれば、

仲間を呼んでその家に乱入して、家財や道具を没収し、

本人を逮捕して六波羅へ連行したので、

都人たちはこれを怖れて、

禿髪がくると道を通る車も、わきによけ、

都の高官も、見て見ぬふりをしたという。

切ないね棘ある水に馴染んでる  岩根彰子

平家物語のこの章の目的は、

平家の栄華と権勢を描くことにあり、

清盛の義弟・時忠が、

「平家にあらずんば人にあらず」

と豪語したとされる逸話も、このなかで紹介されている。

悪人かもしれなぬ頭に渦がない  八田灯子

史実としては、清盛が京中に密偵を放って、

平家に反発するものを、検挙したという裏づけはない。

そもそも、禿髪頭赤い直垂という

人目にたつ格好で、密偵が務まるとも思えない。

禿髪の逸話が生まれた背景には、

清盛が応保元年(1161)から、

1年8ヶ月の長期間にわたって、

検非違使別当に任じられていたことに

関係があると考えられている。

検非違使は、京中の警察や裁判をつかさどる役所で、

別当はその長官である。


ようかんの金塊ほどもある重さ  篠原信廣

検非違使は、犯罪を犯して刑罰を受けたのち、

出獄した「放免」といわれる人たちを駆使して、

犯罪者の追捕や情報収集にあたった。

物語の禿髪のように、人々に紛れ込んで、

噂話や情報を当局に通報することもあったであろう。

もっとも、それは、

検非違使の職掌そのものにかかわることで、

誰が別当であっても、同じことは行われた。

ひとり清盛だけの特殊事情ではない。

気の弱い弁解うなずいてあげる  三村一子

ただし、このころ、平家による検非違使の掌握が、

進んだことは確かである。

実際に犯罪者を追捕するのは、

検非違使尉(判官)の仕事であるが、

平家の全盛期には、

平家の有力家人の多くが判官として活躍した。

さらに注目すべきは、

時忠が検非違使別当に三度も就任している。

反省をすぐに忘れる猫の鼻  中村登美子

同一人物が三度も別当に就任するのは、

検非違使の歴史上初めてのことであり、

九条兼実は、「物狂いの至り」とまで評している。

時忠の別当時代には、

かなり強権的な捜査が進められることもあった。

てっぺんに登ると見えぬものもあり  河村啓子

福原遷都が失敗に終り京に遷都してからは、

反乱勢力の追捕のために

上級貴族にも、兵糧の供出が求められたが、

その調査や徴収の責任者となったのが、時忠であった。

また、頼朝に通じたと噂された貴族に対して、

かなり強引な家宅捜査も行っている。

検非違使を把握することで、

京の治安維持や犯罪捜査を、一手に握った平家の権勢が、

禿髪のような逸話をつくる下地になったのかもしれない。

しゃべったのはペン僕は眠ってた  和田洋子


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参考・『平家物語』-「禿髪」

かくて清盛公、仁安3年11月11日、年51にて病に冒され、

存命のために、たちまちに出家入道す。

法名は
浄海(じやうかい)とこそ名のられけれ。

そのしるしにや、宿病たちどころに癒えて、天命を全うす。

人の従ひつくこと、吹く風の草木をなびかすがごとし。

 ・
中略
 ・
また、いかなる賢王賢主(けんおうけんじゆ)の御政も、

摂政関白の御成敗も、

世にあまされたるいたづら者なんどの、人の聞かぬ所にて、

何となうそしり傾け申すことは、常の習ひなれども、

この禅門世盛りのほどは、いささかいるかせにも申す者なし。

その故は、入道相国のはかりことに、14、5・6の童部を三百人そろへて、


髪をかぶろに切りまはし、

赤き直垂着せて召し使はれけるが、

京中に満ち満ちて往反(おうへん)しけり。

おのづから、平家のこと、悪しざまに申す者あれば、

一人(いちにん)聞き出ださぬほどこそありけれ、

余党にふれ回して、その家に乱入し、

資材雑具を追捕し、

その奴をからめ取つて、六波羅へ率て参る。

されば目に見、心に知るといへども、

(ことば)にあらはれて申す者なし。

「六波羅のかぶろ」と言ひてんしかば、

道を過ぐる馬車も、よぎてぞ通りける。

世のあまねく仰げること、降る雨の国土をうるほすに同じ。

六波羅殿の御一家の君達と言ひてんしかば、

花族も英雄も面を向かへ、肩を並ぶる人なし。

されば入道相国のこじうと、平大納言時忠卿のたまひけるは、

「この一門にあらざらん人は皆、人非人なるべし」

とぞ、のたまひける。

かかりしかば、いかなる人も、相構へて、そのゆかりに結ぼほれんとぞしける。

衣紋(えもん)のかきやう、烏帽子のためやうより初めて、

何事も六波羅やうと言ひてんげれば、

一天四海の人、皆これをまなぶ。

川にごる人間らしきものを捨て  森中惠美子

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