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川柳的逍遥 人の世の一家言
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男に泣く涙は音をたてぬもの  森中惠美子     


    櫛橋 光  (報土寺蔵・京都)

長年、光の詠み方は "てる "とされてきたが平成25年8月に、
 "みつ"だったことが福岡圓応寺に残されていた略伝から偶然みつかった。

「糟糠の妻・光」

地方大名の家老だった官兵衛の妻に嫁いだ(幸圓)は、

夫婦ともに文芸に長じ、仲睦まじく暮らしていた。

しかし、この夫婦の人生は、

信長の播磨国進出を境にあわただしくなる。

しかし、常に、光の心の支えとなったのは浄土宗の教えだった。

夫や息子がキリスト教に改宗しようとも、

頑なに阿弥陀様の教えを守った。

有岡城で荒木村重により官兵衛は、地下牢に囚われの身になる。

その期間一年を超えての長さである。

これは何より本人が一番大変で、馬にも乗れない体となるのだが、

後に残る妻・光にとっても、

阿弥陀様なしではいられない大変な一年だった。

南京錠で自分の心を塞いだ  福尾圭司



村重を説得に行ったはずの夫は帰ってこず、主家の小寺氏

さらに実家・櫛橋氏信長に叛旗を翻すという

八方塞がりの状態だった。

さらに信長の勘気を蒙ったため嫡子・松寿丸は、

信長から「殺せ」との命令が届く。

夫の生死も不明で長男も殺せとの命令に、

どれだけ辛い思いをしたことだろう。

くずれゆく母性本能冬景色  鳴海賢治

朝鮮出兵時、次男・熊之助が兄を追って、

朝鮮に同年代の家臣太兵衛の嫡子)と共に渡海を試みるが、

非情にも玄界灘の藻屑と消えてしまう。

熊之助の出生については、いささか疑義もあるが、

そうは言っても我が子を失った悲しみは、

母としては耐え難いものであろう。

それも戦場へ行きつく前に、儚くも十代の命を散らしたのだ。

しかも譜代の家臣たちの子弟を巻込んでのことである。

異国の戦場にいる如水や長政の心配を含め、

その悲しみの大きさが人の親なら分かるはずだ。

その時も心のよりどころは信仰であった。

押しピンの上で膨張する世界  加納美津子                 



文禄2年(1593)頃に官兵衛が出家して、如水と号すると、

ほぼ同時期に出家して「照福院」と称した。

しかし、出家後も試練が二人を襲った。

慶長5年(1600)「関が原の戦い」が間近に迫ると、

黒田家も東軍につくべきか、西軍につくべきか決断を迫られていた。

当時、光は大坂城下にあり、関が原の戦い前夜に石田三成が、

大坂に在住する大名の妻子を、人質にしようとしたのである。

折りよくガラシャ夫人が大坂城入城を拒否して、

火を放った時の、混乱に乗じて、黒田24騎の中でも、

黒田八虎と称えられた井上九郎衛門、栗山善助、母里太兵衛らが、

三成の見張りをかいくぐり、長政の正室・と共に光を、

大坂・天満屋敷から船で、どうにか大坂を脱出させたのだった。

ことごとく死んだ痕跡を隠す  蟹口和枝       



当時、長政小早川秀秋を東軍に寝返らせる調略をしており、

九州では如水が、農民や浪人を集めて加藤清正らと、

島津の北上に備えていた。

もし石田方に掴まれ、妻子を人質にその動きを封じ込められていたら、

関が原の戦いにおける東軍の勝利は、危うかったかも知れない。

明治時代、参謀教育のため来日した天才メッケル少佐は、

関が原の戦いの布陣を見て、「西軍の勝ちだ」と言い切った。

それほど、あの戦いの小早川への調略と、

島津の北上を抑えた黒田の働きは大きく、

その結果が筑前52万石に繋がった。

激流も蛇行もこえていま大河  宇野幹子


官兵衛も光も長政も眠る黒田家墓所

慶長7年(1602)、光は福岡市に4ツ目となる円応寺を建立する。

中津、唐津、小倉にもそれぞれ圓応寺を建立するが、

最後に福岡城の北側に黒田家の菩提寺を建てるのである。

もちろん浄土宗のお寺で、開山法要は如水の父・職隆の葬儀の

導師も務めた同郷の見道上人であった。

又、如水の没後は夫の菩提を弔う日々を送り、

如水の死の慶長9年(1604)から、

20年余りのち、筑前・福岡で没した。 享年74歳。

この圓応寺は昭和20年の福岡大空襲の際に焼け落ちてしまう。

その際、光の墓石をもう一つの黒田の菩提寺である宗福寺に

届けたはずだったが、

光が臨済宗の寺に行くことを拒んだのか、行方不明になっており、

その墓石の在処は、いまだ謎のままだ。

スイッチを切って人間ひと休み  佐藤美はる

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