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川柳的逍遥 人の世の一家言
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セロテープ千切れば朝のナイル川  井上一筒

 
        徳冨蘆花

『黒い眼と茶色の眼』

「黒い眼と茶色の眼」は、徳冨蘆花が18歳の頃の苦い恋の体験を、

46歳のときに、描いた小説である。

28年の時を経て小説にしたところに、蘆花の根にあるものをみる。

さて、徳冨健次郎(蘆花)は、2度同志社で学んでいる。

1度目は明治11年から13年まで、2度目は明治19年から20年まで、

そのとき、18歳だった。

このときに健次郎は、15歳の山本覚馬の娘・久栄と恋をする。

路面電車が綿毛の中を出て往った  岩根彰子

小説の舞台は主に京都と東京。

時は明治19年から2年間。

そこに同志社を創った歴史上の人物が多く登場する。

名前は、実在の人物と微妙に変えてある。

新島襄は憂いに満ちた優しい黒い眼をした飯島先生として、

八重多恵という名で出てくる。
                   ひさよ
茶色の鋭い眼をした女学生は寿代の名で、久栄

主人公にあたる健次郎は、敬二というように。

そして、健次郎の従兄弟・横井時雄は、又雄という名になっている。

京都府を剥して沖縄県に貼る  兵頭全郎



「物語概略」
 
時は夏休み、京都にいる又雄を訪ねてやってきた敬二が、

梨木神社筋向いの東桜町にある又雄の屋敷で初めて、

寿代という女学生と出会うところから物語は始まる。

その後、又雄は、木屋町三条上ル東側に移るが、

近くの河原町に、寿代が父親と住んでいる家があり、

色々な祭事や緒用などがあって、

敬二と寿代の二人が顔を合わす機会が増えていく。

そして、しだいに敬二は寿代に惹かれていく。

ここまでは水玉ここからは谺  赤松ますみ

やがてクリスマスが過ぎ、ある日、熊本から来ていた従兄弟の次平が、

敬二に、「寿代は、あゝたに恋しとる…どうすったいな」 という。

敬二は寿代の気持を知り、

「吾が未来の妻」、「君が将来の夫」と書いた手紙を寿代に送った。

ところがこの手紙の一件が、又雄や飯島先生に知れるや、

「皆、怒っている」、という噂が伝わってくる。

そこで敬二は寿代を南禅寺に呼び出す。

やがて三門に人力車が止まり、

紫の袴に空色の洋傘を開いて寿代が降りてくる。

二人は天授庵の庭に入り、そこで敬二は別れ話を切り出すつもりでいた。

大騒ぎただれた月の後始末  酒井かがり

そこへ突然、又雄が寺にやってきて、二人を見つけると、

「なんという不都合な…

 妙令の女子を誘って野外において密会したることはよくない」 

と叱りだす。

「成業後なおその感情に変りなくば別問題であるが、

  今日の所為の如きは、全然論外である」 

と言うのだ。

敬二は熟考の末、寿代さんには、

「彼女から来た手紙を返し、彼女からは自分の手紙を返してもらいます」

と無条件に白旗を揚げた。

白線はむごい逢うのに許可がいる  武智三成

 
          蘆花文学館

しかし、敬二は同じことを二回くりかえす。

一度は二人で梨木神社の東側のまん中の寺で会い、

寿代に、「プロミスをリストアする」、つまり約束を復活させる旨を伝える。

また又雄に叱られる。

「リーズン(理性)をもってパッション(情念)に打ち克つでなけりゃいかん」

敬二は、素直にこの忠告を受け入れた。

もう一度は、

敬二が夏休みになって東京に移っていた両親のもとに出かけた時のこと。

兄も近くに事務所をかまえている。

隣の霊南坂教会には、小﨑弘道が牧師をしており、

本郷教会には海老名弾正がいた。

敬二は寿代に手紙を書く。

「あゝなんの日か、おん身を手をたずさえてこの游をなすを得んや」

そして、「君が至親の夫」とつけ加えて投函した。

私の庭で熟していく童話  合田瑠美子

そこへ旧友を訪ね又雄が上京、友とは歓談するが敬二に対しては、

「あんたまた詐うそを云いなはったな」 と叱った。

京都へ帰って敬二は、いよいよ「破約」を決意する。

「清滝へ行って静かに考えます」

しかし学業が手につかず、旅館の支払、送金の遅れ、金策、借金、

月謝滞納、処分の警告など、難題が次々やってくる。

学業の遅れと落第の恐怖、

相国寺で見た首つり自殺をしていた男の想起などなど、敬二を襲う。

青蜥蜴こころ閉じたり開いたり  嶋澤喜八郎

彼は飯島先生にも失望されたと思い、先生に遺書を書き置きし、

京都を脱出。

あてもなく、ただ西に向かい、古い自分の死と、

新しい自分の生を求めて旅に出る・・・・。

というところで物語は終っている。

エピローグのページがあって、その後、何年かして飯島先生が亡くなり、

寿代の父も亡くなり、続いて寿代も病死した。

「茶色の目は23才で眠った」 と、

淡々と、しかし紙背に反省と悔悟の念をこめて、綴られている。

風ラララそちらは掃除用具入れ  筒井祥文

 
神戸女子大・成瀬記念講堂
 
『黒い眼と茶色の眼』の暗号ー解説

                 児玉実英 (同志社女子大学名誉教授・元本学学長)

敬二は又雄さんに3度ウソをつきました。

これはペテロが、鶏が鳴くまでに3度主を裏切るルカによる福音書の場面を

踏まえていると思われます。

それから寿代は、

「紫の袴に空色の洋傘」をさしてしばしば敬二の前に現れますが、

青い色はマリアの色です。

また敬二と寿代や又雄さんの間に立って、

敬二に強い不信感を抱かせてしまう次平は、

最終的には和解するのですが、ユダのイメージと重なっています。

逆光の銀杏飴さん持ってます  藤本鈴菜

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