サムライかカボチャか叩いたらわかる 新家完司
新形三十六怪撰
新形三十六怪撰は月岡芳年が幕末期に描いた妖怪浮世絵・伝奇物語である。
その29話目に小早川隆景が主人公として登場する。
「小早川隆景と天狗山伏問答」
朝鮮出兵の前、
小早川隆景は
関白秀吉から、
「渡海の為の造船をせよ」 と命じられた。
豊前の彦山の楠を伐採して、大船を造れと言うのだ。
彦山は羽黒山や熊野大峰山と並ぶ修験道の山で、
天正9年に
大友義統の軍勢に攻め込まれるまでは、
数多くの僧兵を有した一大勢力だった。
そんな山だったので山の座主は、
色々理由を並べて、
木材伐り出しを拒否した、が、
「関白殿下の仰せだ」 と隆景が伝えると座主は納得し、
隆景は座主の坊にしばらく滞在することとなった。
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ある夜のこと。
外は秋雨が降っており、深山は寂寞たる風情であった。
隆景は一人灯りをともして心を澄まし、古詩を吟じていた。
すると風がさっと吹き、
どこからともなく、身の丈七尺はありそうな山伏が現れた。
頭巾をかぶり鈴懸を付け、数珠を持って隆景の前に座し、
大きな目を突き出して睨みつけてくる。
隆景は
「これは何かありそうな山伏だ。
きっとこの彦山に棲むという豊前坊という大天狗に違いない」
と冷静に判断し少しも騒がず、
瞬きもせずに静かに山伏と睨み合った。
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暫くして、山伏は話し出した。
「左金吾殿! この山の木は開基千百年の昔から一度も
伐られたことがない。
これは人々が神仏を敬い慕うがゆえに守られてきたことだ。
それなのに、隆景が何の恐れもなく木を伐採し、
舟具に用いるとはなんと奇怪なことか。
貴公は仁義の大道に尽力し、仏神に帰依の心も深い。
この末法の世には有り難い名将だと聞き及んでいたのに、
こんな悪逆無道のことをするとはいかなることか」
と声を荒げて言いつのった。
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隆景は答えた。
「これは貴公のような山伏の仰せとは思えない。
この彦山の樹木を、この隆景の私用の為に伐るのであらば、
そのようなそしりを受けもしよう。
しかしこれは関白殿下の御命であり、
隆景はその奉行として、罷り出でたのだ。
この山の木を伐らせるのに前例がないからと言って、
殿下の命に背くのであれば、
それは天下の下知に背くのと同じことだ。
“普天のもと、王土にあらずということなし” という。
秀吉は天子ではないが、畿内は天子の直轄地であり、
そのほかは将軍の令を守るものだ。
天下の下知に背くのは、いかなる道理があっても罷りならぬ。
ゆえにこの命に背くなど,あってはならないことだ。
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次に、この隆景のことを悪逆と言ったが、
山伏殿の方こそ、自分勝手なことばかり言っているではないか。
役行者(修験道の開祖)以来、山伏の法には、
私利私欲を優先して世の法を破れとでも書いてあるのか。
もしそうなのであらば、山伏は邪魔外道の法で、正法のものではない。
正法は私欲を禁ずる。
ならば樹木に執着し、縛られるとはいかなることか」
すると山伏は、
「“普天のもと、王土にあらずということなし”とはもっともなことだ。
貴公の科ではないというのも歴然だ。
ではお暇申し上げる、さらばだ」
と言い残して、掻き消えるように姿を消した。
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「解説」
ある晩、隆景の元に大柄な山伏が姿を現した。
山伏は隆景に向かって、
「この山の木々は、千年以上も切られたことのない神木である。
それを切り出し、軍船に仕立てるとは何事か。
天下に名高き仁将である小早川隆景殿が、
そのような非道な行いをなさるとは信じられない」
と言った。
対する隆景は、山伏の異様な外見を見て即座に
「これは天狗だな」と見抜き、怖じた様子も見せずに、
「確かに、この隆景が私利私欲のために神木を切るというのであれば、
非難されても仕方がない。
だがこれは天子様の代行である関白秀吉殿のご命令であり、
私は公の命令に従っているに過ぎない。
そういう山伏殿こそ、たかが神木如きにこだわって,
公儀を蔑ろにしているではないか。
それこそが非道に値しないのか」
と切り返した。
これに山伏は隆景に反論することができず、
霞のように消え去ったという。
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